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アンダーグラウンド掃討作戦(百五十二)

 操舵室へ行ってみると、そこは既に殺伐としていた。

 やけに船長の声が大きいと思ったら、何処から出て来たのか、拡声器を使っていた。きっとボリュームは最大だろう。


『この船は大丈夫だっ! 既に浸水は止まっているっ!』

「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「おぉぉっ!」「良かったなぁ」

 甲板から船長の呼び掛けに呼応して、男達のどよめきが届く。

 見れば甲板に沢山の乗組員達が集まっている。雨は降っているのかもしれないが、小降りなのだろう。頭から合羽を被っている。


 それを聞いた五十嵐は、ホッとして楓の方を見た。楓は肩を竦めて『ほら、やっぱり』と五十嵐を見つめる。

 だから五十嵐の『非常事態』は、大げさだと言ったのだ。


『勝手に下船した奴は、俺がぶっ殺すからなっ!』

「えぇぇっ」「えぇぇっ」「このままでも、死んじゃいますよぉ」

『もっと左舷に寄れっ! 手摺にぶら下がっても良いぞっ!』

「ひでぇ」「絶対落ちるでしょぉ」「馬鹿押すなよっ!」「わはは」


 あれあれ? 乗組員が左舷に集まって、船が傾くのを防いでいるようだ。するとどうやら、右舷の方から浸水している?

 再び不安げな顔をした楓と五十嵐が顔を見合わせた所に、船長が気が付いて拡声器のスイッチを切った。近付いてくる。


「楓ちゃん、何、その恰好? 逃げ出す気、満々じゃんっ!」

 ウェットスーツに身を包んだ楓の姿を見て、船長が楓を指さしながら怒りの声を発している。

 操舵室の一同も、船長の声を聞いて振り返った。


「五十嵐が『これを着ろ』って、言ったのよ」

 全員の視線を感じた楓が五十嵐を指さすと、案の定、全ての視線が五十嵐へと注ぐ。いや違う。五十嵐の視線が残っていた。


「こぉのぉ、馬鹿たれがっ!」「痛てっ! パパ止めてよっ」

「『パパ』じゃねぇ。『船長』だろうがっ!」「俺じゃないよっ」

 言訳よりゲンコツの方が早かった。結局ゲンコツを放ったことで、『楓の発言が真実』と船長の記憶には登録されてしまった。

 もう如何なることがあろうとも、船長の記憶は改竄できない。

 何しろ石頭。とにかく頭が硬いのだ。


「予備バッテリーに、配線切り替えましたっ!」

 操舵室へ飛び込んで来たのは『伝令』だ。船長が操舵室に戻ってからは、マグロ漁船は全体として統制を取り戻しつつある。


「よぉし。良くやった。船内放送と無線機に火を入れろっ!」

 船長の指示で乗組員が動き出す。しかし本当に『ライターの火』をぶち込む輩はいないだろう。『パチン』と電源が入ると、どこかしこから『モーター音』がし始めた。いつもの操舵室だ。

 船長が拡声器を置き、船内放送のマイクを手にする。


『発電機は使えるか? 報告せよ』

 そこまで言って、一旦伝令の方を向く。

「バッテリーはどれくらい持つ?」「多分、一時間くらいかと」

『五分で起動しろっ!(がちゃっ)』

 マイクを置くと、ニッコリ笑って再び楓の方を見る。そして頷きながらゆっくりと五十嵐の方へ。表情もゆっくりと変えながら。

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