アンダーグラウンド掃討作戦(百四十八)
『うおおおおおおおおおおおっ! くろだぁぁぁぁっ!』
医務室の前まで戻ると、中から大きな声が聞こえてきた。船長だ。
「気が付きましたかっ!」
安心した。これで、楓お嬢様の救助に向かうことができる。
「船長っ! 落ち着いて下さいっ! おわぁ」
「うおおおっ! お前誰だぁっ! 放せこらぁっ! 殺すぞっ!」
駄目だった。軍曹が必死に船長を押さえているが、全く効果なし。
さっきまでぐったりしていたのに、これでは『寝起きの悪い偉い人』だ。始末が悪い。
五十嵐も軍曹と一緒になって、船長を押さえ付けに掛かる。
「船長っ! しっかりして下さい!」
「何だ五十嵐ぃっ! お前『サングラス』も掛けないでぇっ!」
『お前が割ったからだろうがっ!』
とは、心の中で言うに留め、今はそれよりも重要な情報を伝えなければならない。嘘か誠か未確認だが、緊急事態なのだ。
「本艦に魚雷が命中して機関停止、浸水中ですっ! 船長っ!」
すると船長が、嘘のようにピタッと大人しくなった。
急に大人しくなったので、左手を持って引っ張っていた軍曹が、拍子抜けしてすっぽ抜けると床に転がっている。
今まで黒田に対する『憎悪の目』だったのに、『我らが船長の目』に戻っているではないか。
すると顎を引いて襟元を直し、帽子も直そうと手を頭へ。
しかし帽子がない。部屋をキョロキョロしたがある訳がない。
最下層で船長を発見した現場に、帽子は落ちていなかった。発見していれば持って来ている。きっと船長室にあるのだろう。
船長もそう思ったのか、『最下層まで探しに行け』とは言わなかった。それに見渡して『医務室』だと理解し、直ぐに歩き出した。
当然、操舵室へと向かう訳だが、通路に出た所で眉をひそめる。閉鎖された水密扉を見たからだ。
既に付近が、やけに静かなのも気になる所なのだが。
「俺は、どれくらい寝ていたんだ?」
先を行っていた船長が立ち止まると、振り向きざまに問う。
「判りません。一時間くらいでしょうか?」
「そんなには寝ていないだろうっ!」
五十嵐の答えを聞いて、笑いながら再び動き始めた。階段を二段飛ばしであがって行く。五十嵐、軍曹もその後に続く。
「お前は、楓お嬢様の所へ行けっ!」「はいっ!」
階段を駆け上がりながらの船長命令に、五十嵐が答える。その後は踊り場の所で軍曹に目を合わせて問う。
「お前は、誰だ?」「あっ、軍曹です」
船長が苗字を聞き逃したかと思って、不思議な顔をしている。
「あ? 階級?」「船長、そう呼んでやって下さいっ!」
五十嵐の補足説明に、船長は『あぁ』と思って納得してくれたようだ。直ぐに走り始めた。ここで五十嵐は別方向へ。
「じゃぁ、お前は俺に付いて来いっ!」「はいっ!」
後ろから聞こえてきた船長の声に、五十嵐は思わず笑った。




