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アンダーグラウンド掃討作戦(百三十九)

 張り詰めた緊張感が漂う指令所に、突然『殺気』が走った。誰もが身震いをした筈なのに、その理由までは判らない。

 確認しようにも皆、担当の計器前から動けなくなっているのだ。

 艦長不在の艦長席を守る、副長の宮部少佐もその内の一人だ。


 彼にもその『殺気』は、ビシビシと伝わって来ていた。何だか近付くにつれて『死の臭い』も漂い始める。

 副長だけが艦長から『大佐を出迎える』と、その理由を聞いていたからだ。艦長自らが『格納庫扉開閉の指揮を執る』とは、異例のことである。いつもは副長の仕事なのに。


 艦長が『外気で深呼吸したい』なんて、希望している訳ではない。

 副長は『大佐』と面識はないのだが、『噂』にだけは聞いている。上条中佐の副長になった日に、艦長自ら聞いた話だ。

 そして『決して外で喋るな』と、強く念押しされたのも覚えている。凄く素敵な笑顔で言われたので、きっと命令を破って『外で喋った』ら、たちまち消されてしまうのだろう。

 聞くんじゃなかったと思ったのを、思い出した。


「大佐、こちらが指令所です」「ありがとう」

 艦長の声が聞こえて、副長が直ぐに立ち上がる。それでもやはり、計器の前から動く者はいない。

 いや、振り返ることすら危ういと思う、今日この頃のようだ。


「お座りになられますか?」

「いや良いよ。私は専門家じゃないからね」

「そんなこと言わずに。座って頂ければ『箔』が付きますので」

「私にそんなものは無いよ。むしろ『悪運』が付いてしまうぞ?」

 和やかに話ながら、艦長と黒田が薄暗い指令所へとやって来た。そこで敬礼をしているのは、副長ただ一人だ。

 艦長が返礼して権限を委譲し、副長は横に退いた。艦長が黒田を『こちらへ』と案内して、周りを見渡したのだ。


「各員、そのままで聞いてくれ。こちら『大佐』である」

 普段の艦長なら、『そのまま注目』とかであろう。しかし今は『必要最低限の紹介』に留めたようだ。

 名前すらもなく、紹介された『殺気の主』は笑顔で頷いただけ。

 そんな男の階級が『大佐』って言うのも、絶対に『方便』に決まっている。しかし、誰からの返事もなければ異論もない。


「状況は?」「はい只今。副長、その後どうなったかね?」「はい」

 三人は広げられた海図の所へとやって来た。小笠原諸島の海図が広げられていて、集められた情報が記載されている。

「現在地は八丈島の東、五十キロといった所です」

「これは何かね?」「こちら、パイプラインの中継施設です」

「これは?」「吉野財閥自衛隊の駆逐艦で、こちらへ移動中です」

「速さは?」「それが約四十ノット、いえ、三十九ノットでして」

「随分速いな」「そうなんです。あと三十分足らずで会敵します」

 途端に黒田の顔が曇る。見れば艦長の顔もだ。


 流石の黒田にも、晴嵐二機が『今から三十分以内に発艦して頂ければ、驚きのお値段で東京へお届け』と、思ってはいない。

 お届けされるのはどちらかと言えば、爆雷か魚雷に決まっている。もしくはその両方だ。黒田は『トントン』と、海図を指さした。


「黒潮に一発、お見舞しておこうか」

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