アンダーグラウンド掃討作戦(百三十三)
黒井が知る『イー400』は潜水艦で、大東亜戦争時に建造された三隻の内、その一番艦である。
子供の頃にプラモデルを作りじっくり眺めたので、何処から見ても判る。間違いない。確かにこれはイー400ではないか。
航空機も搭載可能なことから、『潜水空母』の異名を持つその艦は、全長百二十二メートル。全幅十二メートル。
子供に戻ったにしては、潜水艦の方が随分と大きく感じる。
「うぅぅ、寒いよぅ。寒いよぅ」
隣ではアルバトロスが寒さで震えていた。黒田もびしょ濡れの筈なのだが、アルバトロスを指して笑っている。
「そう言えばお前、『ハッチ』潜れるかなぁ?」「えぇっ!」
アルバトロスの腹を『ボヨンボヨン』と叩く。
「今から痩せるか? 俺はシャワー浴びに行くけど?」
今度は呑気に下を指さしている。アルバトロスは慌て出した。
「間に合わねぇよっ! タオルと着替え位、持って来てくれよっ!」
どうやらアルバトロスでも、黒田のペースに合わせるのは難しいようだ。再び『寒い寒い』と繰り返している。
黒井はそんな二人の会話を聞きながら、『アルバトロスでも大丈夫』だと確信していた。何故なら目の前にある大きな扉、『格納庫扉』が開けば、飛行機が出入り可能なのだ。
故にアルバトロスが出入りするのに、何ら問題もない筈だ。
すると、子供の頃に遊んだのと同じように、格納庫扉がゆっくりと開き出した。黒井は目を見張る。この後は飛行機が出て来て。
しかし格納庫の扉は、少し開いた所で止まってしまった。
「救助急げっ!」「はっ」「はっ」「はっ」
その隙間、艦の中から飛び出して来たのは四人の乗組員である。
「タオルどうぞ」「艦内へどうぞ」「立てますかぁ?」
担当が決まっているみたいで、三人が走り寄って来ると、各々にタオルを被せてくれた。少しだけ暖かい。
四人目は明らかに上官で、黒井にも見覚えのある白い軍服である。
「イー407艦長の上条中佐です。大佐、お久しぶりです」
「ヨッ、ヨンマル、ナナァッ!」
黒井はタオルで頭を拭く手を止め、艦長の紹介に思わず耳を疑う。それに思わず、大声を挙げてしまったのだ。
艦長は敬礼の途中で驚き、黒井の方をチラっと見た。黒田が笑っているのを確認すると、ちょっとだけ首を傾げるだけに留める。
「おぉ、上条君。久し振りだねぇ。元気にしていたかね?」
「はい。おかげさまで。艦を任せて頂いております」
固い握手を交わした。そしてそのまま艦内へと案内をする。
黒田にタオルを渡した乗組員は、アルバトロスのサポートに向かった。それを見た黒井も『一人で歩けます』と手で断ると、三人目もアルバトロスの元へ。アルバトロスはフラフラだ。
「こちらは?」「相棒の黒井だ。上条君と同じ中佐だな」
「よろしくお願いします」「こちらこそ。お世話になります」
艦長は黒井とも固い握手を交わして笑顔になった。
格納庫から漏れ出る明かりに照らされた黒井の顔が、まるで子供のような無邪気な表情になっていると判ったからだ。




