アンダーグラウンド掃討作戦(百二十九)
執務室でお嬢は一人、頭を抱えていた。今日は厄日だ。
お姉様、名前を省略したときの『お姉様』とは、『ファルコン』のことである。奴が仕掛けた『Cー4』の数、実に百二十八個。
そんな中途半端な数を仕掛けてやがって。
依井大佐が『あと二個はあるはずだ』って譲らないものだから、総動員であちこち探し回ったのだ。結局見つからなかった。クソが。
そもそも『あの量』なら、確実に一発で更地になるだろうに、それを百個以上仕掛けるって、用心にも程がある。
軍を退役しても『更地の魔女』は健在か。恐るべし。
夫の『ホーク』にしてもそうだ。奴もイカレている。
『Cー4』の捜索過程で、発見された監視カメラは三十二個。盗聴器に至っては六十四個。きっと『イーグル』の指示に違いない。
何に使われているのか判らない、赤外線センサーは二百五十六個で捜索を打ち切った。出て来る出て来る。新旧入り乱れて何個だよ。
それを制御用のミニPC十六台で、裏ネットワークを組んでいやがった。独自OSとやらが組み込まれていたみたいで、何も判らん。
おまけに電源を引っこ抜いた瞬間に『ボン』とショートして、回路が燃え尽きてしまった。クソがクソがクソが。
それにしても、店には済まないことをした。黒豹部隊の同窓会、銀座ではもう、あの店でしか開けないのに。
あぁ、いつもだったら、ナイフで切り裂かれた壁紙を張り替えるだけだから、一日で復旧させていた。
それに比べて今回の騒動は、余りにも酷過ぎる。
店のあらゆる壁、床、天井は剥ぎ取られ、トイレも使用不能。
バックヤードの警備室、電源設備、消防施設、警報装置、それにもちろん厨房施設も使えなくなった。あ、ガスの元栓閉めたままだ。
まぁ良いだろう。いや良くないが、あの様相では、復旧するのに半月は掛かるだろう。そうだ、復旧したらパーティーでも開くか。
まぁ、ぶっちゃけ『出禁』にならなくて良かった。そっちだな。
やっと帰って来たと思ったら、今度は『ゲムラー大佐』と来たもんだ。写真を見て、危うくちびっちゃう所だった。
あぁぁ、もう疲れたぁ。何なのぉ? 今日はぁっ!
もう頭が痛すぎる。しかし考えねば。あぁ、えぇっとぉ。
マグロ漁船に侵入されて一週間。大佐は一体、何をしていた?
情報収集ですよね? そんなの当たり前ですぅ。だから、情報収集の『ついで』に何をしていたのかですぅ。
ファルコンに爆発物の『ノウハウ』を教えたのは大佐だし、イーグルと実戦を共にしているのだから、電子系にも強いだろう。
マグロ漁船は『古巣』だろうし、構造は隅から隅まで知っている。
何しろ海兵隊の艦隊を構想し、指示を出していたのが大佐だと言うし。動力系、機械制御系、電気系、通信系、武器系、いや武器はないから。何れの系統も、確認するのに一週間も掛からない。
だとしたら残りの日々で、大佐は『何を』していた?
執務室に執事が駆け込んで来た。『何か』を急いで伝えたかったらしい。しかしお嬢の方が立ち上がり、それより先に叫んでいた。
「マグロ漁船に伝令! 『総員退艦せよっ!』 急いでっ!」




