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アンダーグラウンド掃討作戦(百二十七)

 再び距離を取る。すると黒井が構えながらも顎で合図した。

『あちらをお先にどうぞ』

 すると五十嵐が構えを解く。黒井は兎も角、アルバトロスは扉の外へ逃げ出す様子はない。結局『行き止まり』で怯えているだけだ。

 それでも黒井を警戒しつつ、一旦壁を背にして振り返った。


 やはり黒田だ。逆光でも判る。間違いない。それに笑ってやがる。

 本部からの指令、『絶対に手を出すな』を忘れた訳ではない。

 総帥の指示は絶対。それも判る。判ってはいるが、本人を目の前にしてその判断も揺らぐ。


 にやにや笑っている黒田が、こちらへ向かって歩いて来る。その表情は黒井と『挟み撃ち』にしたと確信した余裕の笑みに見えた。

 しかし五十嵐は、黒井のことを一旦忘れている。


 さっき相まみえたからこそ判る。短くも拳で語り合った仲だ。

 黒井は卑怯にも後ろから『飛び膝蹴り』なんて、絶対にしてこない。やるなら正面から向かって来る『生粋の戦士』であると。


「ちょっと通してくれよ」

 意外にも黒田からの『お願い』とは。しかし五十嵐は身構えた。

 まだ何も判っていない。船長はどうなったのか。そもそもどうやって豚箱を脱出したのか。雨降る甲板に向かって何をしに行くのか。

 だから素直に通す訳にも行かない。


「船長はどうした?」「下で『寝てる』よ?」

 黒田は両手を重ねると顔の横へ。それを『枕』に見立てて首を可愛く傾げた。どうやら船長は『ぐっすりお休み』のようだ。


「どうやって出た?」「んん? 『こう』やって」

 今度は口を尖らせると、両手を握り締めると肘を曲げて胸の前へ。その両拳を、ブンと勢い良く平行に開いて見せた。ゴリラみたいに。


「何処へ行くんだ!」「ちょっと急用が出来たんで、降りるわ」

 明らかに外を指さしている。雨が降っていると言うのに?

 五十嵐は目を丸くする。信じられないことに、全ての疑問が解決してしまったのだ。


 いやいや、船長を『眠らせた』って、えぇっ? 寝たの?

 あの船長が寝たの? 眠らされたの? 絶対に違う!

 それに今、『グイッ』ってやったよね? まさか鉄格子を?

 あれって、実は鉄じゃなかったとか?


 近付いて来る黒田を、止めることは遂に出来なかった。

 構えたままの五十嵐であったが、その横を黒田が平然と通り抜けて行く。『戦意』を喪失してしまったことを、見抜いたのだろう。


「おぉ。良い浮き輪、あって良かったじゃねぇか。なぁ?」

 首に浮き輪を巻いた状態のアルバトロスの頬を、右手でペチペチと叩く。アルバトロスは青ざめて頷くだけで、返事はない。


「遅かったじゃないですか」「そうでもないだろぉ?」

 黒井も今は『アルバトロスの確保が優先』を十分理解している。だから黒田が来なくても、海に飛び込むつもりでいた。

 それにしても黒田は、不思議と雨に濡れている黒井を見ても驚く様子はない。黒井が雨に濡れているのだって、判っている筈なのに。

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