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アンダーグラウンド掃討作戦(百二十五)

「何だてめぇっ!」「ブヒィッ!」

 その悲痛な鳴き声は『嬉し泣き』に、聞こえなくもない。

 言葉尻は矛盾しているが、それが『Mの世界』若しくは『Mの流儀』だとしたならば、敬意を持って耳を傾ける必要があるだろう。

 テーマソングとタイトル字幕を思い浮かべながら。


 黒井はそんな『映像』を打ち消して、猛烈な勢いで走り出していた。勿論『雨が強くなったから』ではない。

 かと言って、『アルバトロスを助けるため』でもない。部下の後ろに五十嵐の姿が見えたからだ。

 その証拠に、飛び出した黒井はアルバトロスの『豊満な胸』を踏み台にして、勢い良くジャンプしていた。


 一応、ここから読み始めた読者の為に説明すると、アルバトロスはデブだ。それに男だ。禿げてはいないが、容姿は推して知るべし。

 更に付け加えて、一週間風呂にも入っていなくて息も臭い。

 虫歯が三本あって歯石も溜まっている。歯槽膿漏に成り掛けだ。


 かと言って『踏み台にするのは良くない』と、『差別』やら『人権擁護』に訴えるその風潮も判る。なので、黒井がちゃんと『浮き輪越しに踏んでいた』ことを、説明しておこう。

 これで良し。アルバトロスの名誉は、見事に守られたと。


「ブヒィッ! グヘェッ!」

 今度の鳴き声こそ『嬉し泣き』に違いない。

 その鳴き声は黒井の耳にも届いていた。無表情だが、ゆっくりと歩き続ける五十嵐の耳にもだ。

 しかし部下の耳には、そのアルバトロスの『嬉し泣き』が届いていなかった。その代わりに届いたのは、『黒井の膝蹴り』である。


 アルバトロスを足蹴にしていて、部下は下を向いていた。

 ついでに黒井を、何処か下に見ていたのもあるかもしれない。それを『油断』と言わずして何と言おう。『舐めプ』だ。


 ふと気が付いて、顔を上げたのも良くなかった。鼻の先っぽで黒井の膝蹴りをモロに食らってしまったのだ。

 どの辺から『残虐な表現』なのかは、議論の余地があるのかもしれないが、食らった部下にしてみれば痛いことには変わりない。


 のけ反ってしまい、顔を押さえる筈の両手はバタバタとしているが、顔までには届かない。

 まるで顔の方が速く移動していて、追い付かないようだ。

 そのまま廊下に当たって跳ね返り、更に反対側の壁に当たってもう一度跳ね返る。そして五十嵐の足元に、無残な姿で転がった。

 首は繋がっているが、五十嵐の部下としては確実にクビだろう。


 五十嵐は部下を足蹴にして、自分の進むべき廊下のスペースを開ける。やはりクビだった。部下はまだ息があって、ピクピク動いているのだが、無情にも救急車を呼ぶ素振りすらもない。


 それよりも五十嵐は、黒井の『空中戦』を警戒して、少し距離を空けて立ち止まった。しかしその距離は、やや警戒し過ぎである。

 何しろ黒井の得意技は『機銃掃射』なのだから。ベッド上での。


「おっ、お前、もしかして『濡れている』のかぁ?」

 五十嵐が気が付いて思わず声を挙げた。確かに理解不能だろう。

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