アンダーグラウンド掃討作戦(百二十三)
黒井が想像した『ミントキャンディーズ』メンバーの姿と、目の前の『アルバトロス』とでは、随分と違っていた。性別もだが。
腕を上下に振ると、揺れるのは『胸』ではなく『腹』である。同じなのは『ボヨンボヨン』という効果音だけだ。
もしかして『手触り』も同じなのではないか。と思った所で、黒井は何とかその考えを打ち切る。もう、何も疑う余地はない。
姿はどうであれ、こいつが『ミントキャンディーズ』なのであれば、あの『殺人ドローン』のことも詳しいのだろう。
だとしたら、『連れ帰る理由』は明確ではないか。
「お前、もしかしてあの『殺人ドローン』のことも、詳しいのか?」
「なっ、『ミントちゃん』だろぉ? 俺を誰だと思っているんだっ」
上下に振っていた腕が、今度はアルバトロスの胸を指していた。
親指で何度も『ツンツン』としている。
その動きにより、汚い服の上からでも、服の下に隠された『豊かな脂肪の塊』が揺らいでいるのが丸判りだ。
「えーっとぉ、確か『アルバトロス』だっけぇ?」
「おぉっ? そうだ。そうだよっ! 俺が『アルバトロス』だっ!」
多分、『そういう答え』を求めての『問い』ではなかったのだろう。普通に返されて慌てている所を見れば、全く凄くはないのだが。
揺れる甲板の外と中で、二人の会話が続く。
「何々? 結構、凄いの?」「凄いんだよっ!」「どの辺がぁ?」
「『ミントちゃん』は、俺が操縦していたのっ!」
それは凄い。がしかし、『あの数』を一人で操縦できるとはとても思えない。確か『コンピュータ制御』だって黒田が言ってたし。
「あれって、『コンピュータ制御』だったんじゃないの?」
「その『制御プログラム』を作ったのが、俺なのっ!」
正しくは『一部』だが、今は激しく胸が揺れている。その振動が大きなうねりとなり、全身へと伝わって行く。今の時化具合と酷似。
「それに『ミントちゃん』ってのはな、ドローンのことじゃない」
「えっそうなの? ふざけた名前だと思っていたけど、違うんだ?」
意外な事実である。黒井は目を丸くした。するとアルバトロスは気を良くしたのか、ペラペラと喋り出す。
「あぁ。全体をコントロールしている『人工知能』のことだっ」
「何だ。『ミントちゃん』であることには、変んないのかよ」
「そうだよ。馬鹿上司がふざけてんだよっ」
その『イーグル』という名前に、黒井は凄く聞き覚えがあった。
するとやっぱり『こいつ』は、本物の『薄荷飴』に違いない。
「もしかして『イチゴちゃん』にも、詳しいとか?」
「当たり前だろ。頭部センサーは、俺の『作品』だ」
今度は両手を丸く握って目の前に持って行き、眼鏡のように当てて見せた。そしてそれを、『キュイン・キュイン』と口走りながら、上下左右に動かして見せる。
黒井は直ぐに思い出した。暗闇に浮かぶ『赤い目』のことを。
「やっぱりお前、これ使えっ!」「馬鹿っ! 嫌だよっ!」
黒井は手にしていた浮き輪を、アルバトロスの頭から被せた。




