ムズイ(ニ)
食後の水を飲みながら、今後の相談をする。
「結局、都市計画から原因には、辿り着けなかったね」
「だねぇ。足元のこと、色々判って面白かったけど」
「やっぱり、アプローチ変えないと。どうする?」
絵理、美里、楓が真面目に話す。そして一斉に琴美を見る。そう言う時に頼りになるのは、何故か琴美だ。
琴美はいつも、変な発想、いや、目の付け所が違う。だから『面白い』のであるが。
「うーん。やっぱり、我々『リケジョ』は、歴史ではなく、科学の方からアプローチしなければならないか」
そう言って水を口にする。
昨日調べておいたことを、話さねばならないだろう。
絵理、里美は牛乳瓶を、楓はストローで最後のカフェオレを吸う。
「ズズズ。ズフォッ!」
「グッ、ちょっと!」
話の腰を折られた形になって、琴美は吹き出した。
「御免、御免、続けて」
ストローを咥えたまま、苦笑いでそう言われても。
「何だっけ。忘れちゃったジャーン」
琴美は苦笑いで頭を掻く。美里が楓を注意する。
「珍しく琴美が真剣なんだから、邪魔しないで聞こう」
「そうだね。ごめん。私が悪かった。よろしくお願いします」
「ほら、楓も反省している体だし、私からもお願い」
「じゃぁ、私もお願いしとこうかな」
三人に頭を下げられて、琴美は目をパチクリさせた。
気を取り直して話の続きをする。
「えっとね。昨日色々調べていたんだけど、
やっぱり雨で人が溶けるのって、塩酸とか硫酸とか、
そういう『薬品による火傷』みたいなものじゃなくて、
皮膚細胞の細胞膜が科学的変化で、次々と崩壊している現象じゃないかなって思うんだよね。
でね、細胞が崩壊するには二つあって『アポトーシス』ってのと、『ネクローシス』てのがあるの。
外的要因で細胞が崩壊するのが『ネクローシス』なんだけど、
これはある種『特定の病気を持つ人』が発症している事象にも見えるから、『雨に当たって溶ける』という外的要因という点ではこっちなんだろうけど。
でも、健康な人も年齢にも関係なく、『みんな一様に溶ける』訳だから、私は何らかの原因で『アポトーシス』のスイッチが入っちゃって、細胞の崩壊が始まっちゃっているんじゃないかなって、
思っているんだけど、どう思う?
あー、でも『アポトーシス』による崩壊って『オタマジャクシ』の尻尾がカエルになる時に、自然と切れちゃうみたいな事象だから、本来『痛い』とか、『辛い』とか、そういうのは無い。みたいな?」
琴美が話し終わって一息付いた時、三人はシエスタ中だった。




