表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
769/1546

アンダーグラウンド掃討作戦(百二十二)

 甲板を見回しても『救命ボート』らしき物はない。

 あるのは浮き輪が一つ。一応『救命浮き輪』なのだろう。『可愛い絵』の類はなく、オレンジ色の丸い輪だ。

 何処かで見たことがあると思ったら、子供の頃にお風呂で遊んでいた『ポンポン蒸気船』に描いてあったヤツ。あれだ。


 それを壁から外して、目の前に立つアルバトロスと比較した。

 何だか玩具から『飛び出して来た』からだろうか。どう見ても『サイズ感』がバグっている気がする。

 アルバトロスの上から被せたら首まで。下から履かせたら『股間ピー』までしか入らない。見比べてみれば確実に。


「そんなんじゃ、俺は行かないからなっ!」

 でしょうね。相変わらず胡麻を擦りながらだが、口から飛び出した言葉は食えないセリフである。しかし黒井は苦笑いだ。


「コレしかないし、諦めて逝こうぜ? ほら。雨も小降りだし」

 一応譲る。目の前に差し出した。脂肪の塊であるアルバトロスの方が、水には浮きやすいかもしれないのだが。


「駄目だっ! ちゃんと『屋根あり』のを持って来いよっ!」

 胡麻擦りを止めて、浮き輪を打ち払う。それどころか、両手を縦に振りながら強く言い張り出した。可哀そうに。必死だな。

 しかし、黒田の言葉を真に受けてはいけない。身を亡ぼすだけだと、肝に銘じておくが良い。

 黒井は納得したかのように頷く。そして歩き始めた。


「じゃぁ、この浮き輪は俺が使うよ」

 真っ直ぐ欄干へ向かって歩く。数歩も歩けば届く距離だ。

 見れば確かに雨は小降りになっているが、打ち寄せる波はまだ高い。ここに飛び込んだら命の保証はない。


「ふざけんなよっ! 俺を置いて行く気かっ!」

 またまたデカい声だ。そうしてデカい声を張り上げて、誰か来たらどうするんだ? それこそ命がないではないか。

 しかしアルバトロスに、そんなことを考えている様子はない。

 どこまでも自分勝手に、ワーワー喚き散らしているようにしか見えないのだが。黒井は、黒田の指示とは言え、なんで『こんな奴』を、船から連れ出さないといけないのか判らない。

 このまま陸揚げしたって、我儘放題に違いない。いっそのこと、放って置けば良いではないか。


「じゃぁ、お前を連れて行って、何か『良いこと』あるのかよ」

 渋い顔になって聞いて見る。しかしそれは、聞かれた本人にとって、かなり屈辱的な言葉であったに違いない。

 生きていく『目的』も『意味』も、人それぞれであり、尊重されるべきものだからだ。


「おぉ、お、俺は『ハッカー』だっ!」「だから何だよ」

「只のハッカーじゃない。凄いハッカーだ」「だからぁ。何だよ」

 黒井にとって『ハッカー』とは、『悪いイメージ』でしかない。

 しかし厳密には、黒井がイメージした『悪いハッカー』とは、本来『クラッカー』と呼ぶべき者である。

 それをこの場で、いちいち説明する字数的余裕はないのだが。


「俺は『ミントキャンディーズ』なんだぞっ!」「まぢでっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ