アンダーグラウンド掃討作戦(百二十一)
ニッコリ笑って無謀なことを言う。アルバトロスは口をへの字に曲げた。こいつ『悲惨な映像』を、見たことがないのか?
豚箱を脱出出来ると思ってここまで付いて来たが、これ以上この男には付いて行けない。
「お前、頭おかしいんじゃないのかぁ? 俺は御免だよ」
怒鳴る元気もないのは、階段を上り続けて息が上がっているだけではない。怒りを通り越した哀れみの表情にもなる。
「でも『俺の世界』では、雨で溶けたりなんか、しなかったし」
「えっ? お前『ハイポ生まれ』なの?」「はぁ? ちげぇよ」
アルバトロスから、ピコンと指さされて問われた黒井だが、その意味が判らなくて首を傾げる。
「知らねぇのか。お前『異世界人』なのか? ってことだよ」
「あぁ。そういうことね。だとしたらそうだぜ」「まじかっ!」
急に、何やら楽しそうに意気投合し始める二人。
アルバトロスは『珍しい玩具』が目の前に現れたかのような、そんな嬉しさが溢れる笑顔だ。
「じゃぁ、見ててやっから、ちょっと逝ってみろよ!」
アルバトロスが嬉しそうに、『さぁ行け』と手を振る。
「おぉっ? 今のは『しんにょう』の『逝く』にしたべぇ?」
言われた黒井も楽しそうに、アルバトロスを指さした。
「してねぇよ。ちゃんと『ぎょうにんべん』の『行く』だよ」
一応『否定』しては見せたものの、その笑顔は怪しい。しかし黒井は、そんなことを気にする様子もない。もう振り返っていた。
掴んでいたドアノブを回すと、『カチャ』と小さな音が響く。
黒井は自分の世界にいたときと同じく、『あら。雨かしら』のポーズを決めて甲板に一歩踏み出して逝く。
頭に雨粒が当たっている。肩にも。顔にはまだだ。
それでも、大分小降りにはなっているようだ。しかし甲板を見れば、雨粒がポツポツと落ちているのが判る。
地肌に直接雨が当たるのも、時間の問題だろう。
「なんだ。全然平気じゃねぇかよぉ!」「お前すげぇなっ!」
黒井は肩幅に広げた両手の平を上にして、頭上と肩の間を上下にバウンドさせて魅せる。(八代亜紀さんのご冥福をお祈りします)
歌の効果か異世界人なのかは不明であるが、黒井は『雨耐性』を獲得しているようだ。
「お前も来いよっ!」「大丈夫かなぁ」「大丈夫だって!」
科学的根拠も何も有りはしない。黒井が『雨で溶けない』という実績があるだけだ。
アルバトロスは、恐る恐る外に左手を差し出した。
「あちぃぃぃっ! ざけんなよっ!」
左手の甲に当たった雨粒は『僅か一滴』だったらしいが、その一滴による衝撃でアルバトロスは直ぐに左手を引っ込める。
どうやら皮膚がただれて『火傷』のようになるみたいだ。
真っ赤になった左手を、服で擦って水気を拭う。そして乾いた左手の甲を、右手の平でひたすらに擦り続けている。正に胡麻擦りだ。
「駄目かぁ。じゃぁお前、どうするんだぁ?」「知るかよっ!」
「いやお前『自分の運命』位、ちゃんと知っておけよ?」
「うるせぇ。異世界から来たお前に、言われたくないよっ!」




