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アンダーグラウンド掃討作戦(百十九)

 執事は考え込んだままのお嬢を、心配そうに見つめている。

 連絡は来ないし、イライラしているし。かと言って、執事もさっきから『船長宛て』に何度もチャットを送信している。

 これ以上、マグロ漁船へ連絡しても無意味だ。後はもう、返事を待つしかないのだ。


 するとお嬢が、パッと顔を上げて立ち上がる。

 どちらかと言うと、さっきまでは『母親の顔』だったかもしれないが、今の顔は違う。

 どう見ても、吉野財閥自衛隊『統帥としての顔』である。


「硫黄島の部隊に伝令。『全艦隊、出撃せよっ!』」

 声も凛々しい。ビシっと腕を伸ばし、まるで目の前に部下が整列しているかのように命令が下る。しかし執事は慌て出した。


「お嬢様! ぜ、『全艦隊』で、ご、ございますかぁ?」

 おおよそ執事らしくない口調だが、それも仕方ない。そんなの『戦争』ではないか。執事は両手を前に出して『アワワァ』である。

 するとお嬢は、そんな執事を見て気が変わったのだろうか。再び腕をビシっと伸ばすと、今出したばかりの命令を直ぐに変更する。


「全艦隊、『速やかに』出撃せよっ!」「えぇぇっ!」

「潜水艦もよっ! 全艦出撃して、パイプラインを守るのよっ!」

 お嬢は机から『海図』を取り出していた。それを睨み付ける。


 そこには硫黄島から伸びるパイプラインが、おおよその位置で書き加えられている。正確な位置は『極秘』だからだ。

 マグロ漁船の『訓練海域』を人差し指で示し、そこから一番近いパイプラインを防衛する『陣形』を考え始めていた。


「潜水艦もですか? 出撃には、結構な時間が掛りますが?」

 燃料を補給して、食料を積み込んで、乗員を集めて点呼して。

『イチ・ニッ・サン・シッ・ゴ・リ・ラッ・ブー・タ・ノ・ケ・ツ』

 言っている『意味』が判らなくて、お嬢は思わず顔を上げる。

 それだけではなく、執事の顔を睨んだままグイッと首を横に曲げる。執事から『意味が判る返事』が来るまで。どこまでもだ。


「判らないの? 緊急事態なのよ?」「マグロ漁船が、ですか?」

 やっぱり曲げる角度の限界が来たのか、今度は逆へと曲げる。


「違うっ! パイプラインが狙われているのよっ!」「ええっ!」

 執事は驚いて、飛び上がらんばかりだ。ビョーン。

 何しろ、今までマグロ漁船の『マの字』ばかりだったのに、いきなりパイプラインの『パの字』になったのだから堪らない。


「良いから早くっ! 硫黄島に連絡を入れなさいっ!」「はいっ!」

 これ以上グズグズしていたら、またお嬢に刺されるかもしれない。

 執事は、足が十二本に見える程回転させながら、執務室を飛び出して行った。するとお嬢は椅子にドカッと倒れ込む。


 大佐の狙いは『ガリソン』に違いない。パイプラインを自ら破壊し、それを『帝政ロシアの行為』と決め付けて非難するのだ。

 そしてアラスカの油田を目指して全軍突撃。読めた。これだっ!

 アラスカの油田に抑留されている同胞を救出しに向かったのは、『海兵隊の旗艦』になる筈だった戦艦長門だ。相当、恨んでいた。

 きっと水爆を二発も落とされた『お礼参り』を兼ねてのことだ。

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