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アンダーグラウンド掃討作戦(百十)

 ズボンのベルト通しにぶら提げていた鍵の束。それを看守は急いで外そうと試みる。

 しかし焦っていると外れないのか、もたもたするばかりだ。


 豚箱の鉄格子を『素手で曲げてしまう男』の相手なんて、誰もしたくはない。加えて『素手で元に戻してしまう男』だなんて。

 時間になったら『豚男』の首に鎖を付けて、女王様のお部屋に引っ張って行く係だった筈なのに。冗談じゃない。


「手伝ってやる」「あっ、どうもすいません。恐縮です」

 黒田が近付いて来て、看守の手を退ける。

 看守は何故か頭を下げ、しかも『お礼』まで口走ってしまったのだが、本人もそんなことには気が付いていないようだ。

 むしろ『お願いします』とばかりに、両手を高く挙げた。


 すると黒田が、軽く『パツン』と引っ張る。

 本人にしてみれば、ただ単に『かるーく』引っこ抜いたつもりだったのだろう。表情を見れば一目瞭然だ。

 しかしそれは『本人の認識』であって、周りの常識、特に『ズボンの常識』とはかなりかけ離れたものだった。


 黒田が引き抜いた鍵束は、ズボンのベルト通しだけではなく、ズボンのベルトにも結ばれていたのだ。看守はそれを忘れていた。

 するとどうだろう。鍵束と一緒にベルトがシュルシュルと引き抜かれて行く。黒田の目の前に鍵束が現れたとき、それは『ベルト』というおまけ付きの鍵束だった。


 ベルトの素材が『わに革ではない』と見抜いた黒田は、それを豚箱へと無造作に放り投げる。傍にあった黒井の手は無視だ。

 黒井は『俺に渡せよ』と思いながら、それを追って豚箱の奥へ。

 見ればアルバトロスも腰を上げている。『カチャン』と音がして、床に転がった『鍵束争奪戦』が開始だ。両者共頑張れ。

 しかしどちらが先に鍵束を手にした所で、状況は何も変わらない。


「何やってるんだっ!」

 突然響く、ドスの効いた野太い声。看守の声ではない。

「何もしていませんっ!」「お前も、何をしているんだ?」

 答えた方が看守だ。しかし『最初の問い』は看守に向けてではなかったらしい。立ち止まって看守を覗き込むが、直ぐに目を背けた。


 ことの詳細は気持ちが悪いので省略するが、看守は『中年の男』であると、先ずは伝えて置く。ケノーバシティーの出身だ。

 その看守がズボンを降ろし、パンツ一丁で『たって』いる。


 ではここで問題です。『』内のひらがなを良い感じにせよ。

 制限時間は十秒。と宣告する前に、看守は通路の隅へ押し出されていた。壁に当たった勢いで床に転がるが、助ける者は誰もいない。


「あんた、酷いことするなぁ。暴力はいけないよ?」

 一部始終を見ていたのは黒田だった。笑いながら看守を指さす。

 仮にも看守が『女の子』だったならば、目の前に『たって』いる大男を無視して、走り寄るかもしれない。仮にもだが。

 しかし今は、大男がそれを許さなかった。


「何やってるんだって、聞いてんだっ! 答えろっ!」

 何のまじないか、左手の平に右拳をグリグリと擦り付けている。

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