アンダーグラウンド掃討作戦(百三)
「所でさぁ、可南子ちゃんは、何しに来たの?」
「私はそこで、『同窓会』だったんですぅ」
三人は話しながら店内を歩き始めた。出口へと向かっている。
すると、三人が通り過ぎたテーブルに座る『関係者』達が慌て始めた。高田部長が『危険物』を取り出したからだ。
「そうなんだ。どおりで。これ、あちこち、仕掛けてたでしょぉ?」
片手で店内をグルリと指さし。もう片方の手の平で『ポンポン』と弾ませて見せた物体に、目が釘付けになる。
それは、Cー4の『時限式信管』であった。多分、取り扱ったことがある者にしか、判別は無理だろう。
しかし偶然だが、店内に居る殆ど全ての者が判別可能であった。
「あらやだ。何してくれちゃってるのかしら。殺しますわよぉ?」
ニヤリと笑って、物騒なことを言う。それを聞いて慌て始めたのは、一歩後ろを歩いていた牧夫だ。
上司と妻が『殺し合い』を始めた場合、さて、『どちらに味方するべきか』を、迷っている訳ではない。
そんなの『真っ先に逃げる』に、決まっているではないか。
実は、ポケットに『同じもの』がある。
カウンターで足を組んだときに当たって、手探りでゴソゴソやっていた。手にしてみて『何だ。これかぁ』と思った奴。
それは『NJSのマーク』が入った、お馴染みの奴だった。
それを勝手に『引き抜いて来た』場合、果たして自分も『殺しの対象』になり得るのかを心配しているのだ。
「止しなよ。折角、久し振りに会ったんだからさぁ。ねぇ?」
間に割り込んで仲裁を申し出るが、高田部長の表情は笑顔のままだ。勿論、可南子の表情も同じく。
「だぁい丈夫だよぉ」「何がですか?」「そうですよぉ」
すると手品のように、シュっと『信管』が入れ替わった。
どうやら高田部長は、覚えたての『手品の腕前』を見せつけたかったらしい。
「『無線式』に、入れ替えておいたからさぁ」
違った。別に、今更『手品の腕前』を自慢する気は更々なかったらしい。それよりも見せたかったのは『新型信管』の方だ。
「あら。それぇ『勝つる武装』の今月号に、載っていた奴ぅ?」
可南子が目を丸くして、嬉しそうに指さした。
「そうそう。何、どういうことぉ? 良く知ってるねぇ」
高田部長が嬉しそうに、新型信管を握り締めると、その手で可南子をヒュッと指さした。
「だってぇ、ずっと定期購読、してますものぉ」
「まじでぇ? いや一般人で定期購読とは珍しい。なぁ!」
笑顔の二人に挟まれて、牧夫は頷くだけだ。
「巻末の『クロスワード』を、解いた賞品ですよねぇ!」
「そうそう! 何それ。熟読しちゃってるジャーン!」
「ですから定期購読してるってぇ」「そうだったぁ」「おいおぃぃ」
笑いながら歩く三人。それを『関係者』は静かに見守る。高田部長が機嫌良く振り上げた手に握り締められていたもの。
それは既に、『何かのスイッチ』へと、入れ替わっていた。




