東京(十二)
人工地盤の上に来た。そこには浅草の街並みがある。
地上に移転した浅草寺に向かうと、雷門が見えて、その先には仲見世通り商店街がある。もちろん営業中で、大勢の観光客で賑わっていた。やはり、これが浅草である。
五重塔も移築されていて、最早ここが『地上から三十一メートル』の場所とは思えない。見上げれば、青い空が広がって、いない。
この辺一帯は『ガラスの天井』で覆われている。
神様の頭上に屋根を取り付けるなんて!
そんな意見もあったのであるが、お参りする人が、雨が降る度に死んでしまっては、神様も何も、あったものではない。
それでも最近は建築技術が進化し、開閉式の屋根にする案がある。
しかし、国宝の本堂(観音堂)は、高さ二十九・四メートル。同じく、国宝の五重塔は、高さ三十三メートル。ギリギリの所に屋根を作る訳には行かない。
せめて十メートルは上に、する必要があるだろう。
それに、もう一つ問題がある。
ガラスで曲面を作ると、レンズ効果で光が収束し、思いがけず火事になってしまう。そんなことは許されない。
どんな屋根にするのか、それはこれからのお楽しみだ。
昭和八年の大修理から大分経つので、そろそろ次の修理も検討されている。その時期と合わせて、屋根の工事が行われるだろう。
四人はおみくじを引くことにする。楓が一番に飛び付く。
「コイコイ! どうだっ!」
気合十分。目を見開き、結果を確認。他の三人が覗き込もうとしても、見せない。
「あー、私『凶』だぁ」
と、思ったら、『凶』と書かれたおみくじを見せた。
「あー」「残念!」「次、わたしぃ」
絵理が行く。『凶』の次に『凶』は出ない。はずっ!
「うっそ。私も『凶』だっ」
苦笑いで見せる。
「なっかまぁー」「あらぁー」「じゃぁ、次、わたしぃ」
美里が行く。『凶』が二回出たら、少なくとも『凶』はない! はずだっ!
「やだぁ。お揃いじゃぁん。何か私も『凶』だし」
物凄い渋い顔で、美里がおみくじを見せる。
無念。『二度あることは三度ある』の方だった。残念でしたぁ。
「えぇ、止めとこうかなぁ」
琴美が渋っている。しかし『凶』三姉妹は、笑顔で琴美を攻める。
「おみくじでビビるなッ」「女は度胸だ!」「根性見せろっ」
そう言われて琴美は、渋々おみくじを引く。後ろでは三人が、手拍子付きで応援している。
「凶! 凶! 凶!」「凶! 凶! 凶!」「凶! 凶! 凶!」
渋い顔のままおみくじを広げる。ピクっと眉毛が動いた。
「んー。『末小吉』って、何?」
琴美が首を傾げて『凶』三姉妹に見せる。すると『凶』三姉妹の表情が一瞬で変わり、拍手もピタッと止まった。
「えー、『凶』じゃないの? ノリわるっ」
「この、裏切り者! 見損なったわぁ」
「はぁ。ココは『大吉』か『凶』でしょぉ。空気読まないとぉ」
勝手なことを言う。流石『凶』三姉妹である。
「いやいや、これって、良いの? 悪いの?」
琴美が必死に聞いているのだが、空気は悪いままだ。
「判らん。でも『吉』の一種なんじゃないの? 末だけど」
「うん。数ある『小吉』の中でも『一番下』だよ。きっと。末だし」
「まっ、だけどさぁ、『凶』よりは良いんだろうから? 今日の夕飯は、琴美の奢り?」
楓が問いかけた。すると、渋い顔の絵理、美里、琴美の内、絵理と里美が笑顔になる。
「やった! 『末小吉』お姉ちゃん、ありがとう!」
「私、焼き肉が良い! 『末小吉』母さん!」
「えー? ちょっとぉ、それじゃぁ『凶』の方が得ジャン!」
琴美は渋い顔のままだ。しかし、楓も容赦がない。
「行こっ! 『末小吉』婆さんは、脂っこい物、行けるかい?」
笑顔でそう言って、琴美の肩に手を回す。
琴美は『婆さん』とまで言われて、頭に血が昇る。
「行けるわっ! 骨付きカルビだって、サーロインだって!」
思わず反論すると、一瞬で空気が変わった。
「ひゃっほー。やっきにっく、やっきにっくぅ」
「琴美もお肉、食べたいかぁ。付き合おう!」
「じゃぁ、凌雲閣の方に行こっ! 焼肉屋さん、一杯あるよぉ」
両肩を支えられて、苦笑いの琴美は焼肉屋さんに連行される。
こうなりゃ自棄だ。いや、焼けだ!
「おうっ! 神戸牛でも、松坂牛でも、持ってこぉぉいっ!」
『凶』三姉妹の運勢は、『大吉』に変わった。




