アンダーグラウンド掃討作戦(百二)
誰か丸見えのパンツ位、隠してやれよ。
そう思いながらも牧夫は、可南子の嫉妬を恐れて前を向く。何しろ、つねられると結構痛いのだ。
まぁ、同窓会会場を出たら、再びナイフで『ウイリアム・テル・ごっこ』を再開するのだろう。とても楽しそうだったし。
それにしても、『サクランボを頭に乗せて』とは。それで得点を競い合うとは感心する。
しかし、『リンゴ』も『サクランボ』も同じバラ科である。きっと『そういうこと』なのだろう。
実は、皆が口にしていた『イチゴ』も、同じバラ科なのだが。
同窓会会場の『黒豹』を出たときに、大慌ての大佐とすれ違った。
牧夫が『どうも』と、声を掛けたのだが返事がない。
まるで娘が怪我をしたときのような、そんな神妙な面持ちだったのでそれ以上の深追いはしない。いや、出来ない。
「こら牧夫。お前、大佐に、なぁにぃやってんだぁ?」
高田部長に呼び止められては、それ所ではない。
しかも大佐の前では、『それ風にしとけ』と言っていたのは、高田部長の方じゃないか。
「あぁ高田部長、どうもぉ」
「どうもじゃねぇよ。この野郎っ。めんどくせぇことしやがって」
慌てて会釈をして見せたのに、その頭を軽く『コツン』とやられてしまった。思わず口をへの字にして頭を掻き、睨み付ける。
しかし既に『ノー眼中』だ。目は可南子に釘付けのようだ。
「おやおや可南子ちゃん、ひっさしぶりぃ」
「ご無沙汰しております。いつも主人がお世話になっております」
「そうそう。いつもお世話してるぅ。どう? 元気にしてたぁ?」
両手を広げると、ニッコリ笑って挨拶をする。一応、元『職場の上司』かつ『仲人』であるからして、ぞんざいには扱わない。
「えぇ。先日は『新宿で』、随分お世話になったみたいで」
「あぁ。良いの良いのぉ。こっちも十分楽しんだ? からぁ」
二人の会話を店内に控える『その筋の者』が、耳をピンと立てて聞いていた。
しかし、渋い顔をしている牧夫の顔を見る限り、飲み屋でぼったくられたのを、高田部長に助けてもらった、位にしか思えない。多分『全員始末したんだろうなぁ』と。
「また主人が、何かやらかしたんですか?」「あぁ。そうなのよぉ」
可南子が振り返らずに、親指で後ろを指さした。
高田部長がヒョイと覗くと、そこにはパンツまる出しの若い女の子が倒れているではないか。『ヒューッ』
いや不謹慎。隣には、さっきまで『業務説明』をしていた大佐の後ろ姿が。顔を平手でペチペチしているが、もう手は動いている。
だからぁ。先ずはパンツを隠してやれと。顔をしかめた所を見ると、高田部長でさえもそう思ったようだ。
「牧夫、大佐に『仕様変更』の話を専門用語バンバンに入れて説明しちゃったみたいでさぁ。カウンターで頭抱えてたわぁ」
違った。やっぱり、目の保養をしていただけだ。
それにしても、どうやら今日の牧夫によるお声がけは、本当に『ご近所付き合い』だけ、だったらしい。




