アンダーグラウンド掃討作戦(百一)
真間の攻撃が始まったとき、可南子はまだ『教育係』を探していた。
すぐ傍に真間の短剣が迫っているのだが、まるで自分には関係ないことのように、見えてすらいないようだ。
本来、上級生の上級生のそのまた上の上級生へと『問い合わせ』をする場合は、きちんと『伝言ゲーム』をして行く必要がある。
特に『判断が難しい案件』については、『生き字引』と言われる上級生まで辿り着く必要がある。
今回の真間の『問い合わせ』とは、先代の『真間のこと』だった。つまり、本当の『ママのこと』だ。
『ママがファルコンの卑怯な不意打ちで潰されたのは本当か』
そんな昔のことを、神が同窓会に降臨する3日前に言われても、判る訳がない。
事情を知る四期生の耳に、やっと届いた所でタイムアップ。
『回答なし』は、つまり『質問は却下』とみなさなければならない。
お嬢に絆創膏を貼っていた四期生は、直観的に『真間が仕掛けた』と確信した。えらいこっちゃである。
致命傷にはならない程度に、真間の動きを封じるつもりでナイフに手を掛けた。掛けざるを得ない。
とそこで、振り返った可南子と目が合う。
直ぐに震えが来た。それも目の威圧で納まると、全身が硬直する。
『お前か?』と語る目に『違います』と答えるのがやっと。
しかも間の悪いことに、先輩であるお嬢を『盾』にしている。
その陰から、真間支援のために『可南子を狙っている』と、捉えられてもおかしくはない状況なのだ。
振り返っていた可南子が、四期生を睨んだままゆっくりと前を向く。その間、ずっと固まったままだった。
もちろん『殺される覚悟』の方が、より強固に固まっている。
結論として、真間の短剣が『血を吸う事態』には至らなかった。『ドスッ』と突き刺さる音は、確かに二回響いたのだが。
真間が予備動作で、短剣を持つ両手を同時に曲げた瞬間だった。それは顔の前で、両方の拳が重なった瞬間でもある。
可南子の蹴りが、真間の腹を捉えていた。みるみる内に、蹴られた胴体が二つ折りになって行く。
それと同時に、真間の前を何かが、多分、可南子の右手だと思うのだが。それが、『サッ』と横切った。
仮に右手だったとして、その右手が『閉じていた』のか、それとも『開いていた』のかは判別できない。
ただ一つ判ることは『パンッ』と、空気を切り裂くような音がして、二本の短剣が同時に飛んで行ったことだけだ。
それが、お辞儀を続ける下級生の頭上スレスレを飛んで行く。
壁に突き刺さると『ドスッ』『ドスッ』という音が響いた。
もしかしたら、『正月早々死人を出したくない』という、誰かの気まぐれが、結果として真間の命を救ったとも言えなくはない。ストーリーが決まっていない初稿のこと。それも良いだろう。
しかし初稿では『季節』や『時間軸』についてはまだ未調整であり、『同窓会』の開催時期が正月、つまり『冬』とも記載がない。
それはつまり、『着ている衣装』についても余り言及がなく、強い衝撃を受け、『回転しながらスカートが捲れるシーン』について、詳細に記載できないことにもつながっている。
真間がどんな衣装で、捲れたスカートの中からどんな下着が露わになって行くのかも、記載することが出来ない。
例えば夏ならレースで、春先なら春を感じるピンク系、秋なら今流行りのカフェオレ模様かもしれない。
ガーターベルトも見えて、そこには予備のナイフも見えると。
あぁ、勿論、ストッキングはナシで、素足に決まっている。
それが冬なら、厚手の黒ストッキング(せめてレース付き)で、毛糸のパンツになる所であろう。
まぁ、精々可愛い模様をあしらって、例えば『イチゴ』とか(今時ねーよ)、干支の『ウサギ』とか(年明けてんだろ)。
どちらにしても、それが幾ら回転したところで、汗も飛ばなければ何も起こらないので、全くインパクトがない。
「パンツ、丸見えだねぇ。若い子は良いね。良く似合ってるよ」
可南子は、床に這いつくばった真間の首根っこを、右足で踏み付けていた。どうやら既に意識はないようだ。
すぐ前で頭を下げ続けている下級生は、結果しか見えていないのだが、それで『神の実力』を思い知るには十分だ。
「じゃぁ、行きましょうか」「何か、寝てるけど、良いの?」
「酔っぱらっているのよ。いつもこんな感じよ?」「そうなんだ」




