アンダーグラウンド掃討作戦(九十九)
「だそうですよ?」
「あら、私が同窓会に来ない方が良いのかしら?」
ああ言えばこう言う。どうすれば良いのか。ニッコリ笑った夫婦に、答える術を二人は持ってはいなかった。
目をヒクヒクさせて前を向いたまま、『何か言え』『あんたが言え』と小さくド突き合うだけだ。
「何? 毒でも入っていたとかぁ?」
牧夫が笑いながら『毒入り』のオニオンスープを指さした。なるほど。やはり彼にしてみればそんなの一目瞭然なのだ。
「そうなのよぉ。ねぇ。お嬢ぉ?」
楽しそうに可南子に詰め寄られて、お嬢は慌てる。
「わっ、私はまだ入れてないですっ! 入れたのはこっちですっ!」
「ちょっと、何言ってんのっ! あんた私が入れるとこ見たのっ?」
慌て始めた二人を見ても、牧夫の表情は笑顔のままだ。
それに気が付いて、お嬢と優子は争うのを止めた。果たしてそれで、この先生きていけるのかは微妙である。
「じゃぁ、帰りに何か摘まんで行く?」
真顔で時計を見た牧夫が、可南子に話し掛ける。あれ? 毒のことは『お咎めなし』らしい。
きっとそれ位では、可南子には『何ら影響なし』と判断されたのだろう。
それよりも重要なのは、『次の予定』であると。
「そうね。そうしましょうか」
どうやら命拾いしたようだ。いや、ちょっと待て。さっき可南子は、『もう起動している』と宣言していたのだが。
それはどうすれば良いのか。
「あのぉ。すいません、お姉様?」
申し訳なさそうにお嬢が声を掛ける。
「あらお嬢、何かしらぁ?」
振り返った可南子の顔は笑っているが、その真意の程は判っている。こうですよね。
『ホークがもう一度時計を見たら。そのときは、判ってるわよね』
である。ですよね。そうですよね。でも、ちょっと確認させて。
「どうやったら、そのぉ。止まりますかねっ?」
胡麻を擦りながら、両手で部屋全体を指しながら問う。
「家に帰って、それからって感じ、かしら?」
停止ボタンは、家に置いて来ているらしい。それは襲撃不可だ。
この間、玄関の鍵を変えさせて貰ったばかりなのに、窓ガラス何て割ったら、一体、どうなってしまうことやら。
「あぁ。なるほど。もしかして、一人でも帰ったら『バァン』?」
起爆条件すら不明であるからして、その条件を探る必要がある。
お嬢が確認したのは、勿論『最悪のケース』だ。
「あら。勘が良いわね。そこは褒めてあげるわ」
「えぇぇ。あのぉ。それでは、私達は、何時まで?」
困った顔をしても無駄とは判っているが、それでも聞かない訳にも行かない。この後、下級生にどうやって説明すれば良いのだろう。
横目に見えた牧夫の左腕が、ゆっくりと上がる。




