アンダーグラウンド掃討作戦(九十八)
入り口の方を見ても、確かに依井少佐、いや、今は大佐なのだが。彼の姿が見えない。
お嬢は同窓会が始まる前に、依井教官にも『ご挨拶』に行っていた。あれから『大佐』にまで昇進したお祝いも兼ねて。
いや、それもあるが、同じ『入院仲間』として今日は『可南子が襲撃に来る』ことを報告しに行ったのだ。
『うん。こっちも、ちょっと『話』があるからね』
指で示すと、笑いながら大佐はそう言っていた。
それが『何の話』かは聞いていない。重大な作戦であることは確かなので、部外者には話せないのだろう。
『お気を付けて』
『ありがとう』
そう言って一礼だけして来た。年を感じさせない体格。流石だ。
今日はいつもの『スーツ姿』とは違い、白い軍服を着て凛々しい姿であったのに。それが早くも『退院してきた当時』と同じく、グルグル巻きの包帯姿に、なってしまったのだろうか。松葉杖付きの。
いや、その前に『救急車』が来るはずだ。仮に息が無くても、最初から『霊柩車』は来ない。
「こちらは?」「後輩の『お嬢』と『ブラック・シフォン』よ」
それを聞いた牧夫はピンと来た。ニッコリ笑って『可愛い後輩』にご挨拶しなければ。
「初めまして。『ホーク』です」
「あぁ。よろしくですます。お嬢です」
緊張しつつ、何とか頭を下げるお嬢。会社の上下関係は度外視だ。
「シフォンです。お姉様には、大変お世話になっております」
握手を求めようとした優子は、思わず手を引っ込めた。握手なんて、そんなの求めてはいけない類の人物に違いない。
「おや、食事は、まだだったの?」
スープだけが『ポツン』と置いてあるテーブルを指さして、牧夫が質問する。その指を『会場内』に向けて可南子に示すと、既に『メイン』が並んでいるテーブルが殆どだ。
いや、『並んでいた』テーブルが殆どだ。
「んん? あぁ。良いのよ。話が弾んじゃって。ねぇ」
ニッコリ笑った可南子が、緊張した面持ちの二人に声を掛け、語尾を強めながらゆっくりと同意を求める。
「そ、そうなんです。ご尊顔を拝すのが久し振りで」
「えぇ。お姉様は同窓会にご出席なさるの初めてなもので、つい」
目をパチクリさせながも、申し訳なさそうに答える二人を見て、牧夫は可南子の肩をポンポンと叩く。
二期生の二人は、それを『信じられない目』で見ていた。
もしもそんなことをしたならば、直ぐに腕を取られて投げ飛ばされていることだろう。もちろん倒した後は、首筋に蹴りだ。
「だから同窓会位、毎年参加すれば良いのに」
「でぇもぉ、色々と、忙しかったのよぉ」「PTAとかぁ?」
まるで『そんな理由なんですよぉ。すいません』とばかりに可南子を指さして、二人に渋い顔を見せる。
「そんなっ、同窓会よりPTAの方が重要ですよ!」「はいっ!」




