アンダーグラウンド掃討作戦(九十五)
差し出した『毒入りスープ』が目の前に戻って来て、優子はたじろぐ。こんな筈じゃなかった。
目をピクリとさせたのは、只の飾りのようだ。
「開発プラットフォームを有料化するのは、やはり愚策でしょうか」
「あんたねぇ。金持ちは判らないかなぁ。貧乏人の気持ちがっ!」
どうやら『報告』は、本当にゲーム関係になっているらしい。
しかし今、優子はそれ所ではない。
今死ぬか、直ぐ死ぬかの二択を迫られているのだ。あと三十秒程何とか誤魔化してみよう。そうしたら億が一にもチャンスが。
そう思いながら死線をスープから可南子に移す。
「優子ちゃーん。お姉さんの言うこと、聞けないのかなぁ? 良くない妹だねぇ。お仕置きが必要かねぇ」
「いえいえ。そ、そんなことは。有難く頂きます」
ここで『笑顔』を作れる優子の精神力を褒めてあげたい。そしてそれが『ピンチ』であると、お嬢なら判る筈。
「そうよ。下賜された物は、早く頂きなさい?」
お嬢まで呑気に勧めて来やがった。勘の悪い女だ。
思わず睨み返すが、お嬢はそれを見てもいない。そりゃそうだ。睨み返されたお嬢にしても『自分の命を守る』ことで精一杯。
例え死線を共にした仲間であっても、今は報告に注力だ。
適当な報告をすれば、テーブルの上にある『凶器』、別名『右腕』がたちまち飛んで来る。一瞬たりとも気が抜けない。
それに、早く報告を終らせて優子にバトンタッチしたい。そうすれば可南子と言えでも隙が出来る。
さっき千絵が、昨年同様ナイフを舐めて逝ったようだが、『これ、凄く効くよ』と勧めたのは、何を隠そうお嬢である。
良し。効果は実証済だ。次の料理にたっぷり仕込んでやる。
『バキィィィッ』「お姉様スゴォォイッ!」
「全く千絵は、毎年毎年、進歩がないねぇ。ほれっ」
「申し訳ございません。ほらっ! チーッ! 解毒剤だよっ!」
どうやら同席していた上級生が、ナイフの柄を破壊したらしい。
まぁ、それ位は出来るだろう。しかし、その後が問題だ。
「ほにゃぁ。ミーの顔が歪んで、私より美人に見えるぅ」
「お黙りっ!(バシッ)」「ミャーッ」「シャーッ」
何だか騒動が落ち着くかと思いきや、騒ぎが大きくなりつつある。
しかし、一番奥のテーブルだけは別だ。大騒ぎすることも、騒ぎを覗き見ることもなく、淡々と報告が続くものと思わるる。
そして優子の時間は、相変わらず止まったままだ。
「あんた『毒の仕入れ先』、変えた方が良いかもよ?」「えっ?」
呆れた口調で可南子に指摘され、優子の死線が再び可南子へと移る。
「普通ねぇ。毒は『自分で用意するもの』だから。ねっ?」
正論を言われてしまっては、返す言葉もない。そんな優子の様子を、お嬢は黙って横目に見る。薄笑いを堪えながら。
「あんたもだよっ!」「私のは自作ですっ!」
否定しながら喜んで答えたお嬢は、思わず口を覆う。




