東京(十一)
それでも、折角来たアンダーグラウンド。観光気分でウロウロする。ちょっとした冒険だ。街灯が明るいのだが。
浅草花やしきも地上に移転していた。石碑が残るだけだ。
「ここも懐かしいの?」
跡地を指さして、楓が琴美に聞く。
「そうよ! あー懐かしぃわぁ」
そう言って琴美が笑うと、他の三人が「だよねぇ」と言う感じで頷く。まったく、ホント失礼な同級生である。
記念撮影をして、次の場所へ行く。しかし、言問通りまでが公開エリアで、それより先は立ち入り禁止だ。
高いフェンスがあって、暗闇が広がっている。街灯もない。
「この先は、どうなっているの?」
琴美が聞くと、美里が教えてくれた。
「都外から来たトラックが通る幹線道路は、トラックステーションまでは入れるけど、基本、立ち入り禁止だよ」
「へー。そうなんだ。真っ暗だもんねぇ」
「あとね、温泉のメンテナンスとか、そういうので入る時は、許可があれば、入れるんだってー」「なるほどー。詳しいね」
琴美が頷くと、美里は笑う。
「テレビでやってた」
「そうそう。タイムカプセルみたいで、面白いよね」
絵理も同調して、暗闇を覗き込む。
「でもね、無法地帯で、怖い所みたいよー?」
脅かすのは楓だ。三人が楓の方を見る。
「借金取りから逃げ回っている人とか、犯罪者とかぁ」
「へぇ。怖いんだねぇ」「でも、どうやって入るの?」
「荷物に紛れて、こっそり侵入するんだって。あと下水道とか」
「映画みたーい」「闇の世界だぁ」
「吉原とか吉原とか吉原とか、まだあるって噂!」
「男って、悲しいわねぇ」
「そういうの作っちゃう悪の組織とか、悪の組織同士の抗争とか、凄いんだってよぉ」
そう言って、おどろおどろしい顔をして、振り向く。
『バァー』と大きな声を出して、脅かしにかかる。
「楓、それは『幽霊』じゃないの?」
琴美が冷静に突っ込みを入れると、楓も一瞬そんな気がしたのか、それでも、言訳っぽく言葉を繋ぐ。
「幽霊もいるかもよぉ。バァー」
「いるかもしれないけど、楓の方が怖いわぁ」「言えるぅ」
絵理に同調して美里が笑った。琴美は一人、笑っていなかった。
侵入方法は、父から聞いたことがある。
しかし、入り口にあるセキュリティゲートは、マイクロチップが埋め込まれた人間を感知する。だから簡単には入れないのだ。
それでも三人と幽霊は、笑顔で松屋浅草支店へ向かう。そこから普通のエレベータで、地上を目指すのだ。
レポートの完成を、観音様に祈願するために。忘れてはいけない。




