アンダーグラウンド掃討作戦(九十二)
どうやら『報告』とは、通勤時間帯の『自転車利用』について調査したものらしい。
お嬢が淡々と交通違反について説明をし始めると、全ての報告が終わる前に可南子が切れてしまったようだ。
「貴方、踏切一つ廃止するのに、どれだけ時間掛けてんのぉ?」
「地元市議会議員への工作に、思ったより時間が掛りぃ」
横にいる優子に助けを求めるが、『私の担当じゃないし、あんた何とかしなさいよ』と、困って頷くだけだ。
「鉄道会社の取締役会にも、圧力を掛けているのですがぁ」
それでも助けになるならばと、優子が割って入った。
「『圧』の掛け方が生ぬるいんじゃないの? もっと押しなさいよ」
「結構押しているのですが、中々過半数に至らなくて」
「じゃぁ引きなさいよっ! 引っこ抜いてやりなさいよっ!」
ズボっと『何か』を引っこ抜く仕草をして、再びの一喝。
すると優子は『女性議員の場合はどうすんの?』と、お嬢に助けを求めるが、『さぁ』と首を傾げるだけだ。
「用地買収も、思ったように進まなくてですねぇ」
机に広げた『近隣の地図』を見ながら説明を始める。
確かに私鉄と国鉄の駅は離れていて、乗り換え客が狭い道を大量に歩き、車も自転車も入り乱れてしまうのは判るのだが。
「あぁ、もうだったらこの辺、さっさと更地にしちゃいなさいよ」
まるで『許可する』とでも言うように、狭い道路に沿って続く商店街をグルっと赤丸で囲った。二期生の二人は渋い顔になる。
現在その辺りは、高架化に向けて土地収用を進めているエリアなのであるが、それがなかなか進まないのが実情なのだ。
「Cー4仕掛てパパっとやれば、一晩で更地になるでしょ。ねっ」
出た。容赦なく、何処でも更地にしてしまう悪い癖。故に、付いた異名が『更地の魔女』である。本人にはナイショだ。多分気に入っては貰えないので、決して本人の耳には入れないこと。
「いえいえ。お姉様! 民用地ですからっ!」「そうです!」
お嬢は吉野財閥のホテルを、一晩で更地にされたことがある。
「そうなのぉ? グズグズしていると死人が出るわよ? 良いの?」
確かに信号一つにしても、そこで誰かが犠牲にならないと改善されないケースは多々ある。まるで現代の『生贄』だ。
だからこそ、日本を良くしたい気持ちは、きっと誰にも負けないと思っているのだろう。日本を陰から変えていくのが役割なのだ。
「あんたね、子供が死ぬのを、待っているんじゃないでしょうね?」
強い調子で可南子が詰め寄る。顔も怖い。
「そ、そんなことはっ」「次の選挙では、逆転して見せますからっ」
言い訳がましいと思ったのか、怖い顔のまま二人を睨み付ける。
どうやら可南子は『人の死』が耐えられないのか。
「もたもたしてたら、あんた達が『生贄』だからね?」
違った。人の命など随分と軽いものらしい。二人は直ぐに警戒だ。
「はい。すいません」「申し訳ございません」
やはりそうだ。何なら『今』というのを理性で押さえている。
『ガタンッ』「チーちゃん、どうしたのっ!」「何? 毒物?」
入り口に近い席で、口から泡を噴き出して倒れた者が。




