アンダーグラウンド掃討作戦(九十一)
一瞬にして表情が凍り付く。
「承知しました(水羊羹って何かしら)」
とりあえず頷いたら許された。この際、許されれば何でも良い。
そもそも洋菓子派のお嬢は、『水羊羹』の存在を知らない。
だから『後でミネラルウォーターでも送っておくか』と海馬に刻み込んだ後は、次の課題に備えて身構える。
同窓会は『親睦の場』であるのだが、その前に『親睦を深めるに値するか』を判断する場でもあるのだ。
基本的に黒豹部隊の活動は『個人単位』である。協力して作戦を執行することは殆どなく、むしろ稀だ。
故に、その数少ない重大な作戦を執行するのに必要な『協力者』を選ぶ。それが上級生から与えられた『課題』なのである。
与えられた課題の進め方を見て『こいつ使える』となれば、晴れて作戦にお呼ばれすると、そういう訳なのだ。
「あのあれ、どうなったの?」「では、報告させて頂きます」
可南子から求められて、二期生の二人は頷いた。
早速課題についての報告が始まる。
すると入り口の方から、料理が運ばれてくる。
待ちかねていたのだろう。良い香りにも誘われて、他のテーブルがざわつき始めた。ここからが『同窓会』本番である。
報告はお姉様達に任せて、後輩達は呑気な食事の時間だ。
テーブルで向かい合うのは、気心の知れた先輩と後輩である。
横には同期、目の前には一級上の先輩が座っていて、後輩は上級性を『お姉様』と呼び、上級生は後輩を『ニックネーム』で呼ぶ。
階級は付けないのがルールである。と言うか、本名すら知らない場合だってざらだ。
「美味しそうな前菜だわぁ。彩りも綺麗!」
「流石銀座よねぇ。私、いつも楽しみにしているの」
あちらこちらのテーブルから『楽しそうな会話』が聞こえて来て、食事が始まったようだ。
しかしよく見ると不思議なことに、箸は勿論、ナイフやフォークの類も準備されていない。
それでも、誰も気にする様子はない。
全員ドレスの陰から極自然にナイフを取り出すと、『それが当たり前』の如く食事を始めたではないか。
どうやら店が用意したナイフの切れ味に、誰も納得していないのだろう。良く見れば、両手にナイフの者までいる。
「ちょっとマミちゃん、青龍刀はデカいって!」「そぉ?」
「どっから出したのよぉ」「ココでーす」「相変わらず器用ねぇ」
和やかに始まった会話とは裏腹に、見た目のインパクトは相当強いと見える。ウェイターも驚きの表情を隠せない。
その頃、一番奥のテーブルでは、まだ課題の報告が進められていて、食事どころではないようだ。
「逆走百十二名、片手スマホ三十五名、無灯火八十名となりました」
「全・然・改善されてないじゃない! 何やってんのっ!」
凄い叱責が飛んでいるのだが、一体、何の報告をしているのやら。




