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アンダーグラウンド掃討作戦(八十三)

 五十嵐が困るのも無理はない。

 吉野財閥自衛隊にあって『絶対君主』とも言えるのが、女王様のお母様、『弓原静』その人である。

 吉野財閥総帥の末娘にして生粋の『お嬢様』であり、結婚して苗字は既に『吉野』ではないのにも関わらず、未だ『お嬢様』と呼称されている。コードネームは『お嬢』だ。いや、そのまんま。


 そしてマグロ漁船の管轄は、お嬢直轄である。

 故にその船長はお嬢直属の部下。今の女王様、『弓原楓』と五十嵐の関係とも似ている。

 絶大なる『信頼』と、お嬢の『訓練相手』という意味も含めて。


 だからそれは『実力的』には勿論、組織上の『上下関係』にしても『格段の違い』があるのだ。

 強面の五十嵐にだって『苦手』というもの位ある。例えば『ナメクジ』とか。ブルルン。


 確かにお嬢の『謎多き調査能力』をもってすれば、『黒田の正体』も掴めるかもしれない。聞いてみる価値はあるだろう。

 しかしそれで、『大したことのない奴』だったとしたら、自分の立場が危うくなる。それだけは確かだ。


 敗北したことは『論外』として、楓お嬢様を守れなかったとしたら、それはもう『抹殺』では済まされない。

 むしろ『殺してくれた方が楽』と、思い続ける人生がそこに待ち構えている。精神的にも肉体的にも社会的にも男としても。


「ねっ?」「はい。判りました。そうしてみます」

「ついでに、医務室へ行って来なさい」

 女王様が指さしたのは、『医務室←』という案内看板である。

 五十嵐は『照会』については頷いたものの、その『紹介』については難色を示す。見れば黒田は、まだ手を挙げたままだ。


「大丈夫よ。ちゃんと見ておくから」「しかしっ」

 渋い顔である。それが『問題』なのだ。

 五十嵐は出来れば、楓お嬢様に『照会』をお願いしたいと思っていた。それに、今日の『お嬢の予定』は『プライベート』になっていると聞いている。所謂『休息日』なのだ。

 そんな日に、自分が『仕事の話』を持ち込んでは船長に何をされるか判ったものではない。


「では、ちゃんと『距離』を取って下さいね」

 五十嵐はさっき拾っておいた鞭を、女王様に渡す。自分の血はとっくに拭ってある。

「大丈夫よ。心配性ねぇ」「それが仕事ですから」

 二人は笑う。チラっと見れば『黒田御一行様』は、足を留めた二人に気が付くこともなく、豚箱を目指してまっしぐらである。

 心配の種は尽きないが、ここで五十嵐は階段を上ることにした。


 まるで『戦場での別れ』を彷彿とさせる。

 すると五十嵐は思う。『船上』であるからして、強ち間違いでもないと。そしてこれが『最後の会話』かもしれないと。


「ちゃんと『距離』を取るからっ!」「直ぐに戻ります!」

 笑顔で歩き始めた女王様は、五十嵐の声に振り返らない。

 代わりに鞭を振り上げて答える。いつものように。

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