アンダーグラウンド掃討作戦(八十一)
言われた黒田は、口をへの字にして両手の平を上に。すると五十嵐は、左足を一歩前に出して構えた。かなり警戒している。
黒田は終始『笑顔』なのだが、何かする度に即座に対応出来るようにしているのだろう。
それにしても、後ろの女王様を守りながらは辛いのか。黒田から目を離さないように、チラッチラッと後ろを気にしている。
その『一瞬』でさえも、命取りであると自覚しながら。
「別に、抵抗するつもりは無いんだけどねぇ。なぁ?」
黒田は再び両手を上に挙げた。そして黒井の方を見ると、『お前もだよ』と合図する。黒井は思わず頷いて両手を挙げた。
黒井の表情は『訳判らん』であるが、五十嵐はそれを気にも留めていないようだ。じっと黒田の目を見つめて、挙動を観察している。
「あのぉ。私は『何を』したんでしょうかぁ?」
上に挙げたままの右手で、黒井は自分を指さした。すると五十嵐は、視線を一瞬、黒田から黒井へ。そして直ぐに戻す。
「自分でやったことを知らないのか?」「ちょっと、色々あって」
五十嵐の問いに、黒井は苦笑いで答えた。すると五十嵐は呆れたように『フッ』と小さく息を吐く。
「あんたぁ。『ぶち込みの黒井』の癖に。良く言うよ」「えっ」
おい。この世界の俺。お前は何だか不穏な『二つ名』を拝命しているようだな。ちょっと俺の代わりにコッチへ来い。
そんなことを考えていれば、黒井だって渋い顔になる。
だからだろう。黒井の顔を見た五十嵐の方が、今度は苦笑いだ。
黒田が黒井の方を見たことで少しは安心したのか、黒井の方を見て話しを続ける。
「命令違反で、ミサイルをぶっ放したそうだな」
「えっ? 俺がですか? いやいや。きっと無線機の故障ですよ」
それはきっと『訓練』ではなく『実戦』に違いない。だとしたら、俺、相当に『ヤヴァイ奴』確定じゃないか。
「帝政ロシアの駆逐艦を轟沈させたんだろ?」「マジっ?」
「三隻も」「うっそっ! そんなことして、良いのかしら?」
「知るかっ。何だ。『沈むまで見てた訳じゃない』ってかぁ?」
何とか『言い逃れよう』としている黒井を、五十嵐は笑いながら左手で指す。黒田も『そうだそうだ』と頷く。
「覚えがないんですよねぇ」「ひでぇやつだ」「あぁ。極悪人だ」
五十嵐の一言に、黒田まで乗っかって黒井を責め立てる。
張り詰めていたギャラリーの中からも、『くすっ』『やヴぇぇ奴だったのか』なんて『ヒソヒソ声』が聞こえ始めた。
「俺、それで『指名手配』されているんですかぁ?」
そんな命令違反をしていたら、どうなるかなんて見当は付かない。何れにしても『地上勤務』になってしまうだろう。
「いや。そうじゃない」「えっ? 違うんですか?」「あぁ」
黒井は目を丸くする。どうやらこの世界では『セーフ』らしい。
五十嵐の口が緩む。そして首を傾げながら、ゆっくりと問う。
「空将の一人娘に『ぶち込んだ』覚えは?」「あぁ、そっちぃ?」
黒井の返事が早い。たちまち顔も歪んでいるではないか。五十嵐と黒井の顔を見比べて、ギャラリーもざわつき始めた。
黒井もどうやら『そっちぃ』は、覚えがあるようだ。知らんけど。




