東京(九)
結局、琴美の予想は外れた。ことごとく。
人工地盤は、一気に出来た訳ではない。やはり最初はしょぼかったし、建て替えられた場所もある。
基本コンセプトは、水害から町を守ること。
だから、大体水没しなくなった時点で『完成』となったが、それが『完了』ではなかったのだ。
その後も『改良』が加えられ『屋根を付けよう』となった頃には『建替え』だってある。
落ち着いてよく考えれば、判ったはずだった。
一つ判ったのは、コンクリートの原材料を取り過ぎて、武甲山が無くなってしまったことだ。
四人は図書館を出て、寛永寺の境内を歩いている。楓の提案で、浅草まで地下鉄に乗って行くことにしたからだ。
絵理と美里は、小学校の遠足以来だ。その時は引率の先生が天気を確認していたが、今は違う。全て自己責任である。
「屋根がない所も、気持ちが良いねぇ」
伸びをしながら絵理が言う。美里は外人が多いからか委縮して言葉も少ない。
「でっしょー? 空気が違うよねぇ」
楓が笑顔で美里の肩を叩いたが、美里は驚いて頷くだけだ。
「まぁ、私はいつも通りですけどぉ」
琴美が口をへの字に曲げて言うと、他の三人は苦笑いをする。
「別に『田舎者』なんて、言ってないじゃーん」
今度は楓が笑顔で琴美の肩を叩く。絵理も美里も頷いた。
「目が言ってるって! 君達、気を付けた方が良いよ?」
琴美がヒュッと指さして笑顔で言うと、三人は驚いて互いの目を確認する。
「言ってるわ」「あんたもね」「確かに。気を付けるワー」
そう言い合ってから、再び琴美を『ジッ』と見た。
「ちょっと!」
琴美は吹き出して、笑いながら怒る。
「逃げろー」「待ってー」「コワーイ」
楓が走り出すと、絵理と美里も走り出す。
「待てこらっ」
琴美もそれを追って走り出した。
そんな様子を、珍しそうに外国人観光客が写真に収めている。
日本人は愛想笑いをすれど、感情を表に出さない民族で、いつも落ち着いて対応する印象らしい。
だから静かな神社の境内で、大声で騒ぎながら笑顔で走り回る女子大生は、動物園以上に珍しい光景に違いない。




