表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
719/1542

アンダーグラウンド掃討作戦(七十二)

「五十嵐、貴方はどっちが勝つとおもぉうぅ?」

 意味深に女王様が問う。半分からかいか。それとも賭けか。

 ゆっくりと見上げながら、微動だにしない男に話し掛ける。


「やはり今回も、軍曹の方ではないでしょうか」

 女王様の隣に立つ『顔に傷のある大男』は、五十嵐と言うらしい。

 顔色一つ変えず、からかいでもなく、賭けでもなく。

 只の『見識』を問われていると感じたようだ。


 実際、その通りである。名は体を表す。世間ではそう言われているが、彼もその一人である。

 幼少の頃より、以下略まだきめていない。そして今は、『女王様のボディーガード』として傍に控える身分に落ち着いた。


「それはどうかしら? 五十嵐もそう思うとは、意外ね」

 何だか嬉しそうな女王様の指摘を耳にして、五十嵐は焦る。


「と、言いますと? もしかして、楓お嬢様は」

 五十嵐の語尾が霞む。女王様が右手をスッと上げていたのだ。

 それは『黙れ』の合図である。五十嵐は深く一礼して前を見た。


 女王様は、昔から以下略せつめいがめんどう。今に至る。

 つまり、おしゃべりの時間は終わりだ。成り行きをよく見て置けと。そういうことなのだ。五十嵐は生唾を飲み込む。

 何と言っても、女王様の人を見る目は確かなのは間違いない。


 女王様は真っ赤になって歯を食いしばる軍曹を見て、薄ら笑いを浮かべた。どうやら女王様は、黒井の方がお好みらしい。

 優勢な軍曹を見ても、『哀れな奴』としか見えていないようだ。


「随分と粘りますね。いつもなら、この辺から一気に行くのに」

 五十嵐の感心した口ぶりを耳にして、女王様は得意気にチラっと五十嵐の方を見る。どうやら五十嵐の『感心』は黒井の方ではなく、言い当てた女王様の方にあるようだ。

 目が合うと『流石でございます』とばかりに納得して頷く。


「そうね。どうやら軍曹も、ここまでかしらぁ」

 まだ勝負は付いていない。それでも勝敗が決する様子が手に取るように判るのだろうか。

「所詮、『マグロ漁船から降りられなかった男』と」

「そうね。そうよねえ」

 だから、今だ軍曹が有利なのだが。ここで軍曹が勝利して、雄たけびを挙げたとしたら、一体どんな顔をするのだろうか。


「うおおおおおおおっ!」

 ほらぁ。軍曹が雄たけびを挙げているではないか。ギャラリーからの歓声も一層大きくなっている。

 しかし女王様と五十嵐には、その様子が目に入っていないようだ。


「あの新人、何て言うの?」「下田からの補充要員で黒井です」

 女王様は頷きながら『パチパチ』と拍手を始めたが、周りにはそれが一体『何の拍手』なのか判っていない。何故なら決着は、『あと五センチの所』で、ピタリと止まっているからだ。


 拍手に反応したのは黒井ただ一人だった。そして、女王様の投げキスを目にしたのも、黒井、ただ一人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ