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アンダーグラウンド掃討作戦(七十一)

 テーブルの向こうとこちらで、軍曹と黒井は睨み合う。

 右手で勝敗を決める『一本勝負』なのに、左手もグルグル回しているのは『体裁』を整える為だ。意味はない。


 二人は目を合わせながらテーブルに右肘を付く。そして、がっしりと互いの手を握り締めると、早速ポディション争いが始まった。

 片方が握り易いような位置に合わせると、それを嫌ってパッと離す。再び互いに握り合っているが、どうにも決まらない。


 判っている。そこに『ご褒美』が転がっているのだ。

 ここで負ける訳には行かない。絶対にだ。


 左手は既に、テーブルの端を強く握り締めていた。

 一応『四人掛け』のテーブルなのだが、腕相撲会場としては小さく見えてしまうから不思議だ。


 元々『腕相撲会場』になんて、使われることを想定していた訳ではない。しかも屈強な戦士の。精々『たこ焼きパーティー』位だ。

 例えこのままテーブルが壊れてしまっても、保証対象外になるのは勿論、損害保険の適用外になるのは明らか。テーブルは涙目だ。


 すると黒田が『レフェリー』らしいことを始める。

 握りが定まらない互いの右手を観察すると一睨み。

『お前の親指はココ。良いな』『おっおう。まぁ良いだろう』

『お前の親指はコッチ。動かすなよ』『おう。仕方ねぇな』

 そんな感じで強制的に、組み替え始めたのだ。そして念を押すように、両者を睨み付ける。


「あと三秒だけそのままでいろッ。行くぞっ!」

 軍曹と黒井が同時に頷いた。大きく息を吸い呼吸を整えようとしているが、どうやら興奮してそれ所ではないようだ。

 力を入れれば『まだまだ』と、黒田に叩かれてしまう。


 しかし最早、完全に脱力することは不可能だ。

 少しづつ相手の『腕の重み』が伝わって来る。手前に引こうとする手首の力も、高まりつつあった。

 軍曹がチラっと黒田を見て、『早くしろ』と目で訴えれば、黒井だって負けてはいない。女王様に向かって唇を窄めて魅せる。

 あっ、スルーされた。ざまぁ。


「レディーッッッ。ゴウッ!」「おりゃぁぁっ」「ぬおおおおっ」

 腕相撲の開始と共にテーブルが揺れた。しかし、二人の腕はテーブルの中央で均衡を保ったままだ。

 黒田レフェリーの腕は、とっくに離れている。


 今は『もう触っていない』と、大きく広げた手を高く掲げた。

 そして、そのまま『不測の事態に備える』かのように、テーブル横で目を光らせているだけだ。

 いつもおちゃらけている黒田だが、『殺し合い』はともかく、『男の勝負』を邪魔するつもりは無いらしい。


 俄然盛り上がるギャラリーの歓声も、耳には入らないようだ。

 じっと二人の『腕の行方』を観察し続けている。


 すると軍曹の右腕が、ジリジリと優勢になってきた。

 黒井の表情が歪み、額には油汗が滲む。どうやら劣勢のようだ。

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