アンダーグラウンド掃討作戦(六十八)
慌てて帽子を被り直すコックに、女王様が問う。
コックは相当慌てているようだ。頷きながら帽子を被るなんて無理なこと、落ち着いていれば判りそうなものだが。
「ご用意、出来ております。ハイ!」
答えてから、やっと帽子を被り直す。と思ったら、どうやら前後が逆だったらしい。それ、丸いけど前後あるんだ。
再びコックは慌て始め、両手で直そうとしている。
「下半分が『コーンフレーク』じゃ、ないでしょうねっ!」
激しい鞭の音に驚いて、コックは頭から帽子を落とす。もう被るのは諦めたのか、それをギュッと握り締めた。
「今日のは、あのっ。下までマンゴーぎっしりでございますっ!」
身振り手振り、苦笑いも添えてコックは特製のマンゴーパフェをアピールし始めた。当然、食堂のメニューに、そんな一品はない。
「そう。じゃぁ、ココへ持って来て」
鞭を持った手で、下を指さしている。大きく上下に動かした指先は、丁度『へそ辺り』だろうか。
「おぉっ」「始まるぞっ」「何がだ?」「知らねぇよ」「おいっ」
すると一斉に歓声が挙がった。周りの野郎たちが目を光らせる。
コックが厨房の方へ引っ込むのと同時に、顔に大きな傷のある屈強な男が二人、豪華な椅子を持ち込んで来た。
一体何処からそんな物が。である。しかし良いタイミングだ。
どうやらそれは『食堂の椅子』とは明らかに異なる見た目。つまり、『女王様用の椅子』である。
一方、女王様が足蹴にしたテーブルも、直ぐに片づけが始まった。
見れば椅子の後ろから、これまた『女王様用のテーブル』が運ばれて来ているではないか。
一体このマグロ漁船に『女王様の下僕』は、何人乗船しているのだろうかって? いやいや、突っ込む所はそこじゃない。
セッティングが終わると、女王様は鞭を畳み、ゆっくりと腰を下ろした。そして、当然の様に足を組む。最近の若い子は足が長い。
続いて、当然のように肘掛に肘を乗せ、立てた腕に頭を乗せると、もう片方の腕、折り畳んだ鞭を前に差し出しながら言う。
「お前たちは、一体、何をしているんだぁいぃ?」
一応、不思議そうな顔をしているが、何をしていたかはお見通しだ。しかし『今は』、何をしているのかが理解できない。
何故なら食堂の中央で、三人の男が仲良く手を取り合い、その腕を振り上げたり、振り下ろしたり。歌ってはいないのだが楽しそうに、踊りながら回り続けているからだ。時計回りでグルグルと。
そんな三人を、ぐるりと取り囲む奴らもちょっとおかしい。
音楽を演奏するでもなく、一緒に輪に加わるでもなく。野郎三人が踊る姿を、あたかも興奮しながら取り囲んでいたかのよう。
女王様が陣取った前だけは、人垣がパッと切れているのだが。
しかし女王様は、その輪の中に加わるつもりはなさそうだ。急ぎ運ばれて来た『マンゴーパフェ』を見て、女子大生のように笑う。




