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アンダーグラウンド掃討作戦(六十六)

 軍曹は振り下ろした自分の腕が、黒井の首筋を捉える軌道を描くのを見ていた。想定通りだ。黒井と目が合うがもう遅い。

 黒井の右腕が上がって来るが問題ない。そこは力で押し通す。


 勝利を確信して笑ったときだった。

 突然の抵抗を感じて腕が止まる。軍曹の腕によって引き裂かれた空気だけが、黒井の首筋へとそよぐ。

 すると、そんな空気の流れを黒井も感じたのか、眉毛をピクリと動かした。しかし目は死んでいない。

 いや、この『違和感』は何だろう。軍曹は一瞬の内に考える。


 どうやら黒井の表情を見るに、『負けた』とも『助かった』とも違う。むしろ『勝利を邪魔された』とでもいうような。

 こちらと同じではないか。この状況で、一対何が起きた?


「お前ら、いい加減にしておけよぉ?」

 ジジイの声だ。さっきまで口喧嘩をしていたのと同じ声。その声が何故か、軍曹の右下の方から聞こえて来る。


 見れば軍曹の右手は、ジジイの左腕一本でピタリと止められていた。動かない。何だ、全然前へ進まない。本当に止められた。

 だから、邪魔されたと思ったのは、むしろこちらの方だ。


 何故なら左手は、素早く反応した黒井の右手をものともせずに押し込んで、奴の首まで達していたからだ。これは押し勝っている。

 そうだ。この腕を一本の腕で止めることなんて、出来ない筈なのだ。しかし残念かな。狙った首の方に、ダメージはないようだ。

 だとしたら、それでも黒井が『勝利を邪魔された』としている理由とは何か。軍曹はチラっと下を見る。


 その理由は直ぐに理解した。そして直ぐに黒井を睨み付ける。

 右腕を止められた瞬間、股間に『風』を感じていた。それは、草原を吹き抜ける五月の風の如く、爽やかなものではない。

 殺意の込められた弾丸が、顔の三センチ横を霞めて抜けるような、避けることの困難な『風』そのものだった。


 黒井の左足が軍曹の股間に迫っている。

 軸足だった左足を開放し、咄嗟に繰り出したにしては強烈な一撃。

 上半身を後ろへ逸らしながらの、半ば捨て身の蹴り。股間に足が引っ掛かって、やっと止まるであろう勢いだ。

 しかしその左足が、やはりピタリと止められているではないか。

 未だプルプルと小刻みに震え続けている。やはり黒井も『動かない』と思っているのだろう。だからこその『目』なのだ。


 止めているのは、右下にいるジジイがヒョイと伸ばした右足である。本人は否定するかもしれないが、割と短い。

 やっと届いた感じすらも漂う見た目だが、そんな足でも止められるとは。これは、素早く蹴りを出した黒井よりも、こちらの新入り爺さんを褒めるべきであろう。何者か。侮れぬ。


 三人は互いの動きを牽制し合っていた。

 この撃ち合いを止めるのなら、三人同時でなければならない。そうでなければ、再び争いが始まるだろう。


「食後の『マンゴーパフェ』は、いぃつ来るのっ! (バシィッ)」

 女王様現る。鞭の音が消えた後は、波の音だけが聞こえて来る。

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