アンダーグラウンド掃討作戦(六十)
「おい新人。『お年寄り』には、敬意を払えよ?」
「うるせぇっ! 黙ってろっ!」
言い争いをしている所で、若い方の肩を掴んだ奴がいる。思わずそれを『セリフ付き』で払い除けてしまった。
するとその『払い除けた手』が、後ろで固定されてしまう。
戻そうとして『グッ』と力を入れても、手ごたえが凄い。戻らないではないか。
若い方は、図らずも元・自衛隊員。腕っぷしには少々自信がある。態勢が悪かったのか? いや、それでもだ。
年寄との『口喧嘩』を中断して、若い方は立ち上がった。
「良い根性してんなぁ。えぇっ」
立ち上がったのに見えたのは、相手の大胸筋であった。そして声は、覗き込んでいるのか、真上から降り掛かっている。
「それは、褒めてんのかぁ?」
若い方が握られている手首を、相手の親指の方に捻って外す。そして、上を睨み付けた。互いに目線を合わせて睨み合う。
折角『良い所』だったのに、人の喧嘩に口を挟むなと言いたい。
すると目を見て判ったのだろうか。大男が太い右手を繰り出すと、若い方の頭を上から包み込んで握り締める。
「そんな訳ないだろうがっ!」
体もでかいが手もでかい。そしてもちろん声もでかい。
手を頭の上に、ポンと置いただけに見えた。
しかしどうだろう。上を向いていた若い方の目線が、上からグイッ押さえられて下へと移る。
若い方は『手は出すまい』と、していたのだろう。そこは場をわきまえている。
「頭に触んなっ!」
全力で手を打ち払う。首も力をいなすように傾けると、大男の手は無事に頭から離れた。
それでも、相当強い力で抑えられていたのが『急に外れた』からだろうか。左側へと流れて行く手の勢いに引きずられてか、右足を半歩前へと出していた。
目も一瞬『ピクリ』としたのだが、それはほんの一瞬のことだ。それを相手に悟られないようにしてか、直ぐに表情を元に戻す。
邪魔な手を払い除けて、再び若い方が顔を上げた。
もちろんバチバチに睨み合って、と思っていたのだが、大男の方がニッコリと笑ったではないか。
「元気が良い新人だな。名前は何だ」
「それも褒めてるのかぁ? 遠慮すんな。お前から名乗れよ」
「何だぁ? 新人の癖に先輩に敬意も払えないのかぁ?」
両手の平を上に上げて首を傾げながら、大声で言いふらす。
食堂の真ん中。二人の周りには既に『ギャラリー』が集まって来ていた。豪華客船と違ってマグロ漁船には、比べるまでもなく『エンターテインメント』が不足しがちである。
みんなこれから起きる『恒例行事』を楽しみにしているのだろう。
既に『賭け金』の募集を、始めている奴らもいるではないか。
「軍曹っ! やっちゃって下さいよっ!」「ガツンと一発!」




