アンダーグラウンド掃討作戦(五十六)
「そんな簡単にバージョンアップ、出来るもんなんですかぁ?」
初めて口を開いたのは赤石だ。渋い顔をしたままの質問に、黒松も渋い顔のまま答える。
「出来るように作ってあるんじゃないの? 今は車だって、ねぇ?」
「あいつらなら、絶対やるよっ」
まるで『知っている奴』のように黒沢が言うものだから、全員振り返って驚く。
すると黒沢は、タバコを床に捨て靴で強く捻り潰していた。
「前回の戦闘にも、参加してる人?」
「はい」「はい」「はい」「はい」
黒松の問いに、当然のように全員が手を挙げた。バラバラなのは、右手か左手かの違いだけだ。黒松の顔が一層渋くなる。
「多分、撮影されちゃってますよね?」「だろうね」
黒松が黒沢に向かって確認を求めると、煙を吐きながら頷く。
「まじすかっ」「判らなかったなぁ」「いつの間に」
レッド・ゼロのメンバーは、しきりに首を捻るばかりだ。
そりゃぁそうだろう。判らないのが判らんでもない。
何せ暗闇で『銃剣のド突き合い』をしたのだ。相手の目を見るのに精一杯で、『周りの目』なんて気にもしちゃぁいない。
「カメラ設置されてるでしょぉ」
黒沢が『天井』を指さして振りながら、アンダーグラウンドに仕掛けられている『監視カメラ』のことを指摘している。
しかしレッド・ゼロの一同は、『この部屋に?』と思って、キョロキョロするばかりだ。
それを見た黒沢は呆れて黙り込み、首を竦めてしまった。
「こりゃぁ、変装必須ですな。ねっ? その方が良いですよね」
「あぁ。死にたくない奴は、急いで顔変えて来な」
黒松の確認に、黒沢は当然のように言って見せる。
しかし無茶を言う。『整形手術』でもして来いと?
「所で、チップ入ってます?」
手術から連想した訳ではないだろうが、黒松が話題を変える。
自分の左耳を指さしながらの質問に、レッド・ゼロのメンバーは互いの顔を覗き見て、それから頷く。
「俺は入っています」「俺もです」「多分、俺もです」
赤坂を除く三人が、渋い顔をして手を挙げる。赤坂には、そもそも『質問の意味』が判らなかったらしい。黒松が赤坂に聞く。
「何? もしかして赤坂さんは『ハイポ生まれ?』」
「はい。そうです」「えっ? 違いますよ?」
答えたのは赤石だ。聞かれた赤坂本人は、驚いて否定した。
「坂やん、良いんだよ」「いや俺、『東京生まれ』ですってぇ」
驚く赤坂の肩を、今度は笑顔の赤川がポンポン叩きなだめている。
「『異世界転生者』は、通称『ハイポ生まれ』って言うんよ」
そう。『ハイポ』はスワヒリ語で、『存在しない』を意味する。
「まぁじすかっ! 俺、『無敵』なんすかぁ?」「いや全然」
赤坂は直ぐに否定されて、ズッコケてしまった。




