アンダーグラウンド掃討作戦(五十五)
ちらっと黒沢の方を見た黒松が、独り言のように『さて』と発した。黒沢は扉の前で咥え煙草のまま、軽く顎を上げる。
それが『話して良し』の合図に違いない。黒松は息を吸った。
「二回目の訓練開始前に、通信量が増えたのと」
ディスプレイに表示されている『グラフ』なのか、それとも『関連図』なのか、とにかく凄そうなものを指さす。
「この『ミントちゃん』の動きの関連についてですが。見てて」
もう一つのディスプレイを指した。どうやら『コレを見ていろ』と言うことだろう。
ディスプレイから離した手で、ENTERキーを押下した。
すると『ミントちゃん』の一団が、高速で動き出す。
左上のデジタル時計が『00:00』から、高速でカウントアップしていく所を見ると『高速再生』をしているようだ。
移動した先々で、○が幾つも表示され始めた。そして、その中で●に変化したものと、○のまま変化しないものが出始める。
黒松がもう一度キーを押下すると画面が止まり、振り返った。
「そりゃぁ『●』が『死んだ奴』かい?」「その通り」「フゥゥ」
発言した黒沢の方に、人差し指をヒュッと向ける。レッド・ゼロの四人が黒沢の方に振り返ったが、直ぐに前を向く。
見てしまったのは、右端に咥えたタバコとは反対側の唇から、勢い良く煙が噴き出した所。目も座っていて、凄く怖かったからだ。
しかし、流石は黒松。怯えている様子はない。
ディスプレイに向き直って●の方を『トントン』と叩きながら、今度は首だけ捻って振り返る。
「どうやら『こいつ』が、集中的に狙われたみたいなんだよね」
レッド・ゼロのメンバーは、相変わらず黙ったままだが、黒沢にはその意味が判った。
「ちっ。顔でも認識したのかい?」「その可能性もある」
「何だい。じゃぁ、もっと『酷い』ってことじゃないかぁ」
二人で勝手に話が進んでいて、黙ったままの奴らは『俺達が呼ばれた意味』について、考え始めていた。
「これが建物の平面図と合わせた『位置関係』なんだけど」
ディスプレイに黒松が指で示した範囲の『拡大図』が表示された。
どうやらそれは、『ミントちゃん』に襲われた時点での『人員配置』を表しているようだ。○と●の位置関係が判り易い。
それを見ると●は、随分奥の方にいるではないか。そして、窓辺や通り道にも○が並んでいる。
確かにそいつらを素通りして、『わざわざ』奥まで行ったのだ。
「リーダーか、衛生兵かい? それとも無線係?」
やはり黒沢が口を開く。二番隊の赤坂は陸軍崩れなのだが、同感だったようだ。驚いて振り返っていた。
それを見た他のメンバーも、『呼ばれた意味』を理解する。
「そうなんだよねぇ。まずいよぉ? これはぁ」
黒松が溜息を付いて、最初のディスプレイを指し示す。
「コレ、この短時間に『画像』と『作戦』を送った形跡だわぁ」




