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アンダーグラウンド掃討作戦(五十四)

 黒沢が四人の男を引き連れて戻って来た。入り口の扉を右手で開けると、無言のまま顎で『入れ』と合図する。

 すると大の大人四人が、一斉に会釈した。そして黒沢の前を通り過ぎる度に頭を下げ、一人づつ順番に薄暗い部屋へと入って行く。


「失礼します! 一番隊の赤石っす! 宜しくっすぅ!」

 敬礼して元気良く部屋に入ったのを見て、次も息を大きく吸う。


「失礼します! 二番隊の赤坂です! 宜しくっ!」

「お前ら、声がデ・カ・いんだよっ! 静かに入んなっ!」

 黒沢の声の方が三倍はデカかった気もするが、それを指摘する強者はいないようだ。全てが沈黙し、動きさえも止まってしまった。

 再び黒沢が、『入れ』と顎で合図すると、やっと動き出した。


「うっす。三番隊の赤川ですぅ。お邪魔しますぅ」

「失礼しまぁす。四番の赤城でぇぇすぅ。お忙しい所すいませぇん」

『バタンッ!』

 最後に黒沢が部屋に入って扉を閉めた。かなり大きな音がしたのに、誰も振り返らない。


 黒沢は、自分で閉めた扉を閉鎖するように寄り掛かった。

 ディスプレイを睨み付け、胸の前で腕を組む。しかし、それを直ぐに解いたかと思うと、エプロンのポケットに手を伸ばす。


 取り出したのはタバコである。

 底をトンと叩いて一本取り出すと口に咥え、タバコをしまう。そして同じポケットから、今度はチャッカマンを取り出した。


 中華コンロに火を点ける為に、常備しているのだろう。カチッと一発火を点けると、やけに長い炎が飛び出す。しかし当然のように、その炎でタバコに火を点ける。

 大きく吸い込んでチャッカマンをしまうと、大きく吸い込んだ後の一息目は、鼻からフーっと一直線に煙が噴き出されて行く。


 再び腕を組んで、ディスプレイを睨み付けた。

 振り返る者はおろか、苦情を言う者すらもいない。


 四人の男達は部屋に入って『異様な空気』に驚き、息を呑んでいた。一体この部屋で、何をしていたのかなんて見当も付かない。

 沢山並んだディスプレイの前で、忙しなく『何か』をしている男の背中を、黙ってただ見つめているだけだ。


 彼ら四人も、そこそこの戦闘経験はある。だからこその『隊長』を任された奴らなのだ。

 そんな奴らが一人も目の前の黒松に対して、声を掛けることすらも出来ないでいる。


 それは単に『邪魔をしたら殺される』という畏怖か、それとも今、『詰めの段階だから』と、単に待っているだけか。

 何れにしても、それなりの敬意を払っているつもりだ。何しろ相手は、諜報機関『ブラック・ゼロ』のメンバーなのだから。


 邪魔をしたら何をされるかなんて、判ったものじゃない。


 もちろん目の前の男が、噂の『黒松』であることは知っている。と言うか、さっき紹介されたばかりで、実物を見るのは初めてだ。

 普段は『何処に居るのかさえ極秘』の人物なのだ。実在するか賭けていた位だし、何しろ噂でしか耳にしたことがない。


「くろまちゅぅ、揃ったよぉ。説明してやんなぁ」

 口火を切ったのは、やはり黒沢だ。

 咥えタバコのまま喋ったものだから、仮にも文章にでもしたら『可愛く』言ったように感じるかもしれない。しかし、実際の声を耳にしたレッド・ゼロの四人に、そんな感想を持つ者はいなかった。


「ご苦ろっ、ンゴッ。ンンッ! ご苦労さま。黒松です」

 振り返った黒松は、黒の目出し帽を被っていた。それを見て『怪しい』と睨んだり、『可笑しい』と笑う者はいない。

 何故ならそれが、『ブラック・ゼロの正装』だから。

 例え口の周りに『炒飯のご飯粒』が付いていたとしてもだ。


「それでは、こちらで解析した結果をですね」

「あんた、口の周りにご飯粒」「あぁ」

 折角話始めた所で、黒沢の注意が飛んで中断する。

 どうやらご飯粒は、『お弁当』ではなかったようだ。確かに、今から大宮公園に行く余裕はない。


「それでは改めまして、解析した結果をっ」

「口の中に食べ物を入れて喋らないっ!」「はい。すいません」

「たくっ」

 再び黒沢に注意されて、黒松は黙り咀嚼を再開する。呆れた黒沢は、その間にタバコの灰を遠慮なく床へ落としていた。


 レッド・ゼロの四人は、直立不動の姿勢で二人のやり取りが終わるのを、只ひたすらに待っているのみだ。一言も発せずに。

 後ろに立つおばちゃんは、『一体誰なんだろう』と、思いながら。

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