東京(七)
四人は書庫にやって来た。ずらっと並んだ資料を見て、口をへの字に曲げた絵理が、他の三人に聞く。
「関東大震災って、いつだっけ?」「明治か大正じゃん?」
美里が答えて、楓に聞く。
「そんな前なの? でも、日付は知ってる。三月十一日でしょ?」
琴美が端末を取り出して調べる。
「誰か調べなよー。大正十二年だってー。ちょっと、日付違うし」
琴美の端末を楓が覗き込む。
「へー、防災の日と一緒なんだね。凄い偶然じゃーん」
「そうなの? 知らなーい。で、大正十二年って、何年よー」
絵理も端末を覗き込んだが、休日ではないので知らないようだ。
「何言ってんの? 大正十二年は、大正十二年よー」
美里が困り顔で絵理に言い返した。絵理が美里に言い返す。
「はぁ? そうじゃなくて、西暦よ、西暦。元号で言われたってさぁ、そんな昔のさぁ、判んないじゃーん」「えー、そう?」
美里が苦笑いで美里が反応する。
その隣では、楓が少し上を見て、計算を始める。
「明治が四十五年でしょー、大正が十五年でしょー」
それを放置して、絵理と美里で言い合いが始まった。
「じゃぁ、元禄十年は何年よー」
「いやいや、そんな昔のわっかんないってー」
西暦1697年である。
「じゃぁ、慶応十年は何年よー」「だから判んないってー」
うん。ですよね。慶応は四年までしかないでーす。
「えーっと、昭和が六十四年でしょー、平成がぁ三十年?」
楓が琴美の方を見て確認。焦った琴美が指摘する。
「ちょっと、一番近いの忘れちゃダメでしょぉ。三十一年よ」
「知ってるわよー。ド忘れよ。四十五足す、十五足す、六十四足す、三十一足す、今年は?」
「二千二十二年よ」
絵理が横からパッと答えた。楓が頷く。
「じゃぁ、それに今の足して、西暦から引けば良いんでしょ」
「ん?」「あれ?」
きょとんとする絵理と美里の横で、琴美が楓に指摘する。
「いや、大正なんだから、明治の分、要らなくね?」
「あー、なるほど。じゃぁ、十五足す、六十四足す、三十?」
「三十一だってばー」
そう言いながら端末を操作する。こりゃだめだ。
「足したら幾つ?」
「あー、大正十二年は、1923年だってー」
琴美は溜息を吐いて、端末の画面を三人に見せた。
四人は頷いて、1923年の資料を求めて書庫の各方面に散る。
「都市計画のあったー。何年のだっけ?」
棚の向こうから、楓の声が聞こえる。
「大正十二年よー」
美里が返事をした。直ぐに楓からも返事が。
「オッケー」
どこがだよ。




