アンダーグラウンド掃討作戦(五十二)
「出席、されるんですかっ!」
「出席、されるんですかっ!」
またもや同時に発言。仲が良い証拠だ。しかし今度は互いに睨み合い、『あんたは黙ってなさい』と火花を散らす。
無言だが、互いに『何を言っているか』判っているだけに、始末が悪いようだ。この二人、昔からこうだったのだろうか。
しかし今度は、そのまま取っ組み合いには発展せずに、黙って父親の方を見た。
どうやら『冗談であって欲しい』と、思っているようだ。
「何か、あれですよね? 『銀座の何とか』ってお店で」
「はい。そうです。バー『陸士』ですよねっ」
「はい。そうです。バー『陸士』ですよねっ」
父親の答えに、二人は思わず小声で答える。父親には右耳からも左耳からも、別の声で『同じ答え』が聞こえて来るから不思議だ。
「あぁ。そうです。そうです」
だからなのか、両手の人差し指を伸ばし、まるで『二丁拳銃』のように腕を縦に振っている。
なるほど。なるほど。妻と、目の前の二人は『同じ学校の出身』だったらしい。父親はふと思い出す。
そう言えば妻が何処の大学だか高校だか、今まで聞いたことがなかった。気にしたこともなかったけれど。
「どちらの学校なんですか?」
聞いてどうなると言う訳でもないが、聞いて何か問題もあるまい。
父親はごく自然に、普通に聞いただけだ。しかし目の前の二人は、ビクっと固まってしまったように見える。
さっきまで『あんたの臭い口は閉じとけっ』だったのに。
今度は互いを横目に見て『あんたが上手く誤魔化しなさいよ』と、回答権を押し付け合っているのが見え見えだ。
「な、中野『の』学校です」「良い学校でした」
ご婦人の方がハンケチを取り出し、汗を拭きながら答えた。おばちゃんも頷きながら相槌を入れている。
それを聞いた父親は大して驚きもせず。ただ頷くばかりである。
「ほぉ。『中野々学校』ですか。どんな字、書くんだろうね?」
にこやかに隣に座る娘の方を見て、右手で『中』の字や『仲』の字を空中に描き始めた。
娘の方は苦笑いで、『さぁ?』と首を傾げているだけだ。『おじいちゃんから聞いたでしょうがっ』と、思いながら。
ご婦人とおばちゃんはそれを見て、『馬鹿な旦那で助かった』と思っているのか、それとも違うのかは判らない。
しかし少なくとも、『助かった』と思っているのは確かだ。
本当は『陸軍中野学校』で、選りすぐりの女性を集めた『黒豹分校』の元部隊員なのだ。その名も、黒豹部隊。
その存在を知る者からは、こう忠告されている。
『良いか? 女を脱がせて『黒いレオタード』が出てきたら、黒豹部隊だと思え。そうでないとコレだっ』
彼女達の素顔を見て、生き延びた者は居ない。




