アンダーグラウンド掃討作戦(四十九)
「誰が見て良いって言ったんだよっ!(バシッ)」
「あうぅ。いってぇぇっ」
目を合わせただけで鞭が飛んで来た。理不尽である。宮園は驚いてベッドから床に転げ落ちていた。
鞭で叩かれた場所を思わず押さえるだけで、もう目は見れない。
「返事は『ブヒー』だろうがっ!(バシッ)」
再び鞭が飛んで来る。女王様に『躊躇』というものはないようだ。
しかも、押さえている腕もろともに、再びの鞭打ち。
「すいませんっ! ブヒーッ! ブヒーッ!」
「返事は一度で良いんだよっ! この裏切り者がぁっ!(バシッ)」
「ブッ! ブヒィィィッ!」
理不尽である。余りにも理不尽である。どうやら何を答えても、『三回鞭で連打されるのがお約束』のようではないか。知らんけど。
とにかく宮園は、頭を抱えて縮こまっていた。
さっきから頭を鞭で撃たれている訳ではないのだが、それは何となくだ。だからそんな宮園の気持ちも判らんではない。
女王様は一歩下がって、そんな宮園を見下すような目で見つめている。再び右足を上げると、今度はそのヒールの先を左ケツにグリグリと押し付ける。
「抜き出した情報を、何処に売ったんだぁ? あぁん?」
「何もしていません、嵌められたんですっ!」
「嘘を付くなっ! (バシッ)」「ヒィーッ」
「証拠は挙がってんだよっ!(バシッ)」「ヒィーッ」
「返事は『ブヒー』だろうがっ!(バシッ)「ブヒーッ」
やはり鞭打ちは、三回セットらしい。いや、今度はヒールがケツにグリグリとめり込んでいるので、それを合わせると。
「これが証拠だっ!」
ハラリと沢山の写真が、宮園の顔の前にばら撒かれた。宮園は顔を上げて、その一枚を見る。
そこには確かに自分と、取引先の相手がバッチリと写っているではないか。用心して窓のない席を選んだのに、どうして?
「いったいどこでっ」
「こっちを見て良いって、誰が言ったんだよっ!(バシッ)」
「ブヒーッ」
「相手の名前を言ってみろっ!(バシッ)」
「ブヒーッ! 知りませんっ!」
「『知りません』って名前じゃないだろうがっ!(バシッ)」
まだ名前を答えていないのに、やはり三回で止まる。もしかしてこれは、『人道的な拷問』と考えて良いのではないのだろうか。
いや違う。宮園にしてみれば、これは『人道的なご褒美』なのかもしれない。宮園は頭を抱えて、必死に頭を働かせている。
仮面の奥に見えた瞳の虹彩を、人事データの顔写真、それを最大ズームした瞳の光彩との比較を、早くも始めていた。
二十代・女性のデータを抽出して、その全員分とだ。
「うううっ! 思い出せないっ!」
宮園は思わず唸る。NJS本社分から、グループ会社の全員分にまでマッチング範囲を広げても、該当者が出て来ないのだ。




