表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
692/1539

アンダーグラウンド掃討作戦(四十五)

 ソファー席には『カーテン』が掛けられている。だから『内緒話』をするには都合が良い。

 だからだろうか。さっきから店は騒がしいのだが、この席だけはまるで『お通夜』の様に静か―になっている。

 ペコペコと頭を下げ続ける一人を除いて。


「この度は、大・変・申し訳ございませんでしたっ」

 黒い服を着たご婦人が、神妙な顔つきで深々と頭を下げている。額がテーブルに『ピタッ』『グリグリッ』と、くっ付くまでだ。


 いやもしかして、テーブルが無ければ、もっと下まで行くかもしれない。果てしなく何処までも。何なら床下まで。

 頭を下げられている親子の方は、そう思っている。


「いえいえ。どうぞ頭を上げて下さい」

 親の方が恐縮している。声もヒソヒソ声だ。

 両手を前に出して、お辞儀を止めるように言っているが相手にその様子はない。

 かと言って、肩を掴んで無理やり起こすのもはばかれる。何しろこちらは男なのだから。


 このとき男は、まだ知らなかった。

 目の前のご婦人がその気になれば、額でテーブルを真っ二つに割り、床まで到達出来るであろうことを。

 やらないのは、ココが『自分の店』ではないからだ。


「本当に、本当に、大切なお嬢様を、申し訳ございません」

 泣き出しそうな声で詫び続ける黒服のご婦人は、髪を結び後頭部へお団子として纏めている。


 首には、まるで『首輪』のような真珠の首飾り。

 人と会うのに、必要最低限と言った感じだ。であるからしてイヤリングもなく、飾り気はない。


 それでも、見えている白い首筋と漆黒のお召し物を見れば、相当の『お金持ち』か『権力者』にも見える。もしかして、両方?

 仮に、店の外で『黒塗りのリムジン』を待たせていたとしても、それはおかしくない程に。


「もう、頭を上げて下さい。怪我もなく、無事だったんですから」

「そうです。私が『行く』って決めたんですから」

 父親の隣にちょこんと座っていた娘が、何かしらの『被害者本人』なのだろう。彼女の方も手を前に出して、必死にご婦人をなだめようとしている。


「お前は黙っていなさいっ! 探偵の真似事みたいなことをしてっ」

 父親は『身内には厳しいタイプ』なのだろうか。娘は久々に落ちた『雷』に感電したのか、ビクッとして押し黙る。


「家の娘が付いていながら、本当に申し訳ございませんっ!」

 父親の叱責が、かえって『逆効果』だったのかもしれない。

 ご婦人が一度上げた顔を、直ぐに再び勢い良く下げる。そんなご婦人の顔を見て、父親も黙り込んでしまった。


 激しく流れ落ちた涙で、ご婦人の美しい顔にマスカラの跡がベットリと付いている。それはもう、とっても怖かったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ