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東京(六)

「楓、詳しいんだねぇ」

「だねぇ。今日、図書館に来なくて、良かったんじゃね?」

「何で、そんなに詳しいの?」

 三人が楓に聞く。昨日『図書館に行こう』って言った時は、そんなこと全然言ってなかったのに。


「お父さんが、帝国石油テイコクオイルで働いているからねぇ」

 そう言うと、『ニッ』と笑って琴美を見る。釣られて絵理と美里も琴美を見た。見られた琴美は『?』となったが、間を置いて、それから慌てて手を振る。


「いやいや、私は別に、全然、詳しくないからね!」

 そう言いながら首を横に振った。

「何も言ってないからー」

「そうだよー。何も、言ってないからー」

「判ってるって。判ってるって」

 全てを察したように三人が、笑顔で琴美を慰める。


 琴美は困った。どうやらこの三人は、何かを誤解している。


 大学の職員専用サーバに侵入して、来月の食堂のメニューを覗き見るとか、割引終了時刻を五分遅目に変更するとか、ポイントの有効期限に夏休み期間をカウントしないように、期間算出プログラムを書き換えるとか、新しくラーメンとパフェのセット割引を導入するとか、そういうことを期待されているのだろうが、そんなことは出来ません。出来たとしても、出来ませーん。

 だって、そんなことをするのは『クラッカー』だから。


「じゃぁ、今日はどこから攻める?」

 琴美が話題を変える。

「公害の報告書、とか?」

「それは、オンラインで見れるんじゃ?」

「あー、それじゃぁ、その年の病人の数とか?」

「そんなの、判るの?」

「保険点数の統計見れば?」

「なるほど。でもそれも、オンラインで見れるんじゃ?」

「うーん。それじゃぁ、都市計画からってのはどう?」

「えー、何でぇ?」

「意味あんのぉ?」


「だってさぁ、都市全体に屋根を張るって、大変だよ?」

「そうだけどさぁ、頑張れば出来んじゃね?」


「いやいや、頑張ったんだろうけど、

 何か、屋根の柱になりそうなビルがさぁ、

 都合良く建ち過ぎなんだよ。絶対、何かあるよ」


「関東大震災で、基準が変わったんでしょ?」

「そうそう。あとそれと、地盤沈下? 井戸水使い過ぎで」


「うん。でもね、そうだとしても、だよ?

 こんなさぁ、大々的に人工地盤を作ってさぁ、

 しかもその後にさぁ、屋根作りまーす、なんてなってさぁ、

 あ、このビル柱に丁度良い! 高さも揃ってるぅ、とか、

 絶対、何かあるってぇ」

 琴美は頭を捻って考える。


「どう思う?」

「まぁ、調べて見ても良いかなぁ」

 絵理と美里は納得したようだ。三人は楓の方を向く。


「人工地盤が三十一メートルなのは、昔の尺貫法で『百尺』に決めたから、らしいよ?」

 左手の平を上に上げ、片目を瞑って言う。


「そうなんだぁ」

「良く知ってるねぇ」

「半端だなぁって思ってたけど、丁度良い数だったんだね」

 他の三人は、感心して頷く。それ見て楓が、言葉を続ける。


「ほら、『アルプス一万尺』って、『三千メートル』の山っしょ」

「え? そうだったの? アルプス一万『弱』で、九千メートルの山かと思ってたー」

「あっ、私も!」

「それは『アルプス』じゃなくて『ヒマラヤ』じゃーん」

「確かに! なるほどー」

「いやー、でもそんな所まで、小鑓持って行くのは大変だねぇ」

「アルペン踊りをするために、何本持って行ったんだろう」

「一人三本? きっと昔の人は、アルペン踊りに命かけてたんだよ」

 楓が纏めて、四人は笑った。


 北アルプス・槍ヶ岳の直ぐ隣にある『小鑓・標高三千三十メートル=一万尺』の山頂は、人が二人立ったら満員。一般ルートに非ず。

 そこまでのことは、楓も知らなかったらしい。

 アルペン踊りが『どんな踊り』だったのか。それはこの世界でも、誰も知らない。

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