アンダーグラウンド掃討作戦(四十)
室内の奴らが首を傾げている。赤井が『何を言っている』のか、理解できなかったのだろう。
「作戦当日ブラック・ゼロの二人が、潜入調査を敢行している」
「何処へですか?」
折角説明をしたのに、意味が判らなかったのだろうか。聞き返して来た奴がいる。赤井は再び顔をしかめた。
「秋葉原のNJS本社へ、ブラック・ゼロの二人が行ったんだよ」
「正面からですかぁ?」「あぁ。そうらしい」
NJSの『秋葉原本社』と言えば、有名な超高層ビルである。
何しろ吉野財閥の一角を成す、巨大企業だからだ。社員だけで、優に三十万人を超えるだろう。
「良く入れましたねぇ」「陸軍の紹介で行ったそうだ」
「はあぁぁっ?」「意味判んね」「どういうこっちゃ」
そもそもブラック・ゼロの行動を全て把握するのは、こちらには不可能なのである。赤井だって同じ気持ちだ。
「とにかく本社ビルの、『軍関係者専用出入口』から乗り込んで」
「コントロールセンターに行ったと」「そうだよ」
口をへの字に曲げた赤井のその顔は『先に言うなよ』である。
「じゃぁ何処にあるか、判るんじゃないですか?」
「そうですよ。ルートを辿って行って、そこをぶっ潰しましょうよ」
今からでも遅くはない。むしろ早く行くべきだ。発言した二人に賛成する者も、ちらりほらりと見受けられる。
「それが、そうも行かないんだ」
そんな気配を打ち消すように、赤井が説明を始めた。
机上から一枚の『手書きの図』を取り出して、黒板の方に向き直る。するとそこには、既に『先客』がいた。
赤井はちらっと振り向いて、一番前の奴に『これ、もう良いよな』と小さな声で『イチゴちゃん』を指さした。
するとそいつが直ぐに立ち上がり、黒板から『イチゴちゃん』の図に手を掛ける。磁石を一つ外して赤井に渡した。
もう一つの磁石も赤井に渡すと、図を二つに畳んで机に置き、自分は席に戻る。
「これがNJSの、本社ビルの見取り図だ」
反応が薄い。それは確かに手書きではあるが『見取り図』である。
潜入したブラック・ゼロのどちらかが、案内された経路を覚えておいて、その記憶を頼りに書き出したのだろう。
しかしそこにあるのは、『数字の並び』と『簡単な図』だけである。どちらかと言うと、『空白』の方が多い。
それでも赤井が、とにかくその図を使って説明を始める。
「専用のエレベータで上下左右に動き回り、到着したフロアの図だ」
「エレベータって、『上下』だけですよね? 『左右』って?」
それには流石に笑い声が漏れる。アンダーグラウンドの住人であっても、『ハーフボックス』位は知っている。
ブラック・ゼロの二人は、どうやらそれで案内された模様。
場は少し和んだが、赤井は『後でな』の顔をして頷いただけだ。




