アンダーグラウンド掃討作戦(三十七)
「司令官、こいつが『どれ位』攻めて来るんですか?」
それはお互いに確認したくない事実である。
一機でも大変そうなのに、数によっては対処不可能な状況もあり得るだろう。そんなことにならない為にも、事前の準備が必要だ。
赤井は次の資料を手にした。いつも通り、諜報機関『ブラック・ゼロ』からの報告書だ。
まだ軽くしか読んでいないのだろう。いつも沢山付いている付箋が、それには一つも付いていない。
彼らの行動については、戦闘集団『レッド・ゼロ』をしても把握するのが難しい。
人数はもちろん、何処の誰から情報を仕入れているのかもだ。
それでいて、こちらのお株を奪う様な戦闘もやってのける。
実際赤井は、訓練で『じじい』と対決したこともあるのだが、簡単に組み伏せられてしまった。驚くのはそれだけではない。
何と『給食のおばちゃん』にまで、けちょんけちょんにされてしまったのだ。相手はフライパンも使わずに、しかも『秒で』だ。
気が付いたら目の前に『ピータン』が出されていた。笑顔で勧められ、それが凄く印象に残っている。
一口食べたら、『実は普通に腐った卵』であることが判り、直ぐに吐いた。それからずっと、ゆで卵は食べていない。
「ブラック・ゼロの調査によると、二十、いや二百、機、以上と」
自信なく語尾が擦れている。
「にぃひゃぁくぅ?」「二十? ドローンが二百?」「大丈夫?」
言った方も聞いていた方も、ショックを受けていた。曖昧な数字にブラック・ゼロの調査能力を疑う者もいる。
「どうやら、二百機以上が攻めてくるようだ」
渋い顔の赤井が顔を上げた。報告書を一頁を指さしている。
そこには『貨物列車の本数から算出して二百機以上』と書いてあった。一番前の奴がそれを確かに確認して頷く。
「やっぱり二百だってよぉ」「マジか」「笑えねえ冗談だ」
「陸軍の奴ら、遂に本気になりやがった」「俺達を全滅させる気だ」
「どうするんだよ」「もう、逃げるしかないんじゃねぇか?」
「何処へだよ」「埼玉の奥地とかぁ」「上尾辺りか?」
「馬鹿、もっと奥地だよっ!」「えぇっ? じゃぁ熊谷辺りか?」
「何言ってんだよ。熊谷は群馬じゃねぇかよっ!」「イテッ!」
ざわついた中、赤井が報告書に目を落とした。
直ぐに静まり返る。一番前で騒いでいた奴に突っ込みを入れることもない。どうやら赤井も、熊谷は群馬県だと思っているのだろう。
「機械化師団は、秋葉原貨物駅を出発し、厩橋を渡る」
赤井が棒読みで報告書を読んでいる。それは、予想される『敵の進行ルート』だろう。
「春日通を東進し、清州通り、区役所通り、三つ目通り」
報告書には地図も載っているが、いずれもレッド・ゼロの庭である。見る必要は全くない。
「全てを南進しながら、小名木川まで進軍するものと推察される」
そんな見慣れた筈の地図を、ゆっくりと一同に向けて見せる。
そこには大きく『下向きの矢印』が、何本も描かれていた。




