アンダーグラウンド掃討作戦(三十三)
「今の音、何ですかね?」
黒井に言わせれば、『銃にしては大きい』又は、『ミサイルにしては小さい』である。
「駅の方からだな」「えっ、脱線したんですか?」
心配そうに黒井が言う。黒田は首を傾げている。
そうなのだ。協力者である機関士が乗っている貨物列車が、とっくの昔に駿河小山駅を通過している筈だ。
「脱線したら、もっと大きな音だろうなぁ」「そうですか」
考えながら黒田が言うので、黒井も納得して頷いた。
「知らんけどな」「何ですかもぉ」
適当だったらしい。しかし『元陸軍』の黒田には確証があった。
「ありゃぁ、バズーカーだなぁ」「あぁ。って、本当ですかぁ?」
疑り深く黒井が黒田を睨み付ける。また適当なことを言っているのではないだろうか。
「バズーカーなんて、積んでなかったじゃないですかぁ」
「あぁ。『単品』ではな」
思い出すような仕草から意味深にアクセントを付けて、黒田が黒井を見つめる。しかし黒井には見当が付かない。
「どういうことですか?」
すると『ダメだなぁ』な顔になった黒田が、流れに乗って遊び始めてしまった。黒井は気になって黒田を追う。
「だからぁ、どういうことですかって!」
少々大きな声で呼んだからだろうか。黒田が人差し指を口に付け『シーッ』と無言で指示する。黒田が上を指さす。
黒井も思わず黙った。橋の下を通過していて、声が反響したのも反省する。そしてその橋の上を、凄い勢いで車が通り抜ける音が。
ライトの明かりが水面まで落ちて来て思わず首を竦めるが、それでどうにかなるものでもない。
橋を抜けて見えて来たのは、軍用トラックが何台も通過して行く姿なのであった。
『私は流木です。私は流木です。私は流木です』
そのまま暫し、流るままに揺られて行く。力を抜いてダラーンと。
それにしても、いつから黒井は『改名』したのだろうか。あんなに偽名を使うのを嫌がっていたくせに。今更である。
黒田は黒井の表情が見えて、鼻で笑っていた。
「お前『流木のフリ』したって、ダメだからなぁ?」
「何で判ったんですかぁ?」
黒田は笑っているだけで答えない。パッと立ち上がり走り始める。
魚道を通るときは浮き輪にしては重たい『ミントちゃん』を、抱えて陸を走るのだ。そしてまた川へダイブ。
昼間だったら通りから丸見えかもしれないが、今は丑三つ時。良い子は寝ている時間だ。心配ない。
夜明け前までに楽しい川下りを切り上げて、『戦利品』の解析をしなければならない。時間は刻一刻と迫っているのだ。
黒田が入手した情報だと作戦開始は一週間後だが、この騒ぎだときっと延期になるだろう。




