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東京(五)

 国立図書館の書籍は、基本的にオンラインでも公開されている。政府や役所が発行したものとか、著作権が切れたものとか、そういうものであれば。


 今回四人が閲覧しに来たのは、めったに読む人がいなくて、電子化されていないものである。

 昔の論文とか、否定されてしまった論文とか、否定した論文とか、そういう類のものだ。


 ちなみに、論文を否定するには『三通の論文』が必要とか。

 自分の書いた論文が、三人もの後身が研究するネタになり、論文となることは、ある意味『有難い存在』かも? しれない。


「うーん。『ガリソン』使っているのが、怪しいと思うんだよねぇ」

 アイスコーヒーを掻き回しながら、琴美が言う。

「何で?」

 絵理がストローを弄りながら聞くと、琴美が答える。

「だって、日本だけなんでしょ?」

「そうだけど、関係ないんじゃない?」

「うん。委任統治領だって、使ってるじゃん」

 絵理と美里が反論する。琴美は口をへの字にして黙った。


「あぁ、ハワイ行きたいなぁ」

 楓は、相変わらずマイペースである。

「そう言えば、ハワイも『ガリソン』じゃん」

 絵理が思い出したように言う。

「へぇ、そうなんだ」

 琴美は意外に思った。いつの間に?


「だって、向こうの王様と皇族って、親戚なんでしょ?」

「らしいよねぇ。だから『保護国』なんでしょ?」

 絵理と美里が琴美に聞いたが、琴美は首を傾げている。だから三人は楓の方を見たのだが、楓のフラダンスはまだ終わりそうにない。


「でもさぁ、使っている『量』が違うじゃん?」

 確かにそうだ。そう思って三人は頷いた。

 川崎の工業地帯からの煙が公害に指定されたのは、多くの人が犠牲になってからだった。


「発電にだって、使ってるんでしょ?」

 琴美が頭を捻る。

「そうなの? 火力で?」

「燃えるから?」

 絵理も美里も、首を傾げる。楓が笑い出す。


「いやいや、火力発電は『重油』だから」

 それを聞いて、三人が楓を見る。

 楓のフラダンスはもう終わっていた。どうやら、マジらしい。


「何で?」

 素朴な疑問を琴美が投げる。楓の笑顔はそのままだ。

「何でって言われても。でっかいボイラーとか、船とか軍艦は、昔から『ガリソン』じゃなくて、『重油』でしょぉ」

「そうなんだぁ」

「アメリカの標準石油スタンダードオイルとか、イギリスの貝殻石油シェルオイルとか、オランダ王室石油ロイヤルダッチオイルとかぁ、そういう所から『原油』買ってたでしょー」

「お、おぅ?」

 ちょっと聞いたこと有るような、無いような、そんな石油会社の名前を聞いて、琴美は考える。『ガリソン』あるのに?


「日本のは?」

 琴美が聞くのは、絵理である。

「日本で産出されるのって『ガリソン』だけなんでしょ?」

 そんな絵理が聞くのは、決まって美里。

「そうそう。何か硫黄島沖の海底から、温められた原油が気化して噴き出している、みたいな?」

 詳しくは知らなーい。そんな言い方だが、それで十分だ。


「そうなんだぁ。だから『重油』は無いんだぁ」

 琴美は絵理と美里の話を聞いて、納得して頷いた。

「今は違うでしょー」

 楓の声に、三人が振り返る。楓が笑いながら話す。


「今は『ガリソン』から水素を取り出してさぁ、二酸化炭素とまじぇまじぇしてぇ、出来上がった合成燃料からさぁ、軽油だってぇ、重油だってぇ、ナフサ? 何だってぇ、作れるでしょぉ」


 そう言って、左手の平を上に上げ、片目を瞑ってドクターペッパーを飲むと、渋い顔をした。

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