アンダーグラウンド掃討作戦(二十九)
駿河小山駅の非常停止ボタンが操作され、けたたましいブザーが鳴り響く。それと当時に信号が赤になる。
運転手の佐々木は『これ幸い』とばかりにブレーキを掛ける。
しかし重たい貨物列車は、急には止まれない。そもそも止まらないから『ここ』まで来てしまったのだ。
それでも水平になったからだろうか。速度は落ちて行く。
赤信号を無視して『進行する』ことなど、運転手にとっては絶対にあり得ないことだ。
もちろん青信号で『進行しない』ことだって、絶対にあり得ない。
車の信号と違い鉄道の青信号は、『陛下が止まれと言っても進まないといけない』って、誰かが言っていた。
ブレーキハンドルを握る手にも、思わず力が入ると言うものだ。
それにしても、今頃列車指令では上を下への大騒ぎになっていることだろう。
日程を調整し、ダイヤを調整し、警備を調整し、先導列車まで走らせて安全を確認したはずなのに、後続の列車が突然停車したのだ。
しかも『駅で』だ。何が起こっているかなんて、見当も付かないではないか。急いで監視カメラを覗き込む。
指令所のスクリーンにも映像が映し出される。すると居合わせた全員が、一斉にスクリーンに釘付けとなった。
「何だあれぇ」「なにこれ怖い」
思わず呟くのも頷ける。そこに映っていたのは『積み荷が散乱している光景』だったからだ。
お客様の荷物が駅のホームに、沢山散らかってしまっているではないか。鉄道マンにとってそれが『どういうこと』なのか。
「陸軍に連絡しろっ!」
司令が立ち上がり大声を張り上げると、全員が一斉に動き始めた。
画面の向こうで幾ら騒ごうとも、それは現場に届くはずもなく。
ホームにいた原島と金子は『状況』が理解出来なかった。
ひたすらに『話が違う』と思うだけで、『手当アップ』まで考えが至る暇もない。
すると貨車にいた男、柳田が決死の形相でホームに転がった。
いやいや、そんな必死な顔をしなくても、既に貨物列車は止まっているのに。大げさな奴だ。
空中をホバリングしながら、空砲を撃ち続ける『ミントちゃん』も、それを追従してホームの上へ。
屋根の陰に入った柳田を追い掛けるように、シュっと機敏に動作したかと思うと、架線も見事に避けてホームまで来たではないか。
子を想う親の気持ちは、機械の世界でも同じようだ。
司令官役もこなす自動警備一五型が、動き始めたのだ。『やっと着いたかぁ』とでも言わんばかりに。
右を向いて『ピポポポ』と音がしたかと思ったら、シートの下から同じ位置にある『赤いランプ』が、一斉に点灯したのが判った。




