アンダーグラウンド掃討作戦(二十八)
「ジャン・ケン・ポン!」「ジャン・ケン・ポン!」
「あっち向いてホイッ!」
上向きと下向きだった。継続だ。
「ジャン・ケン・ポン!」「ジャン・ケン・ポン!」
「ジャン・ケン・ポン!」「ジャン・ケン・ポン!」
「ジャン・ケン・ポン!」「ジャン・ケン・ポン!」
「あっち向いてホイッ!」
白熱した後は右向きと下向きである。継続だ。
「ジャン・ケン・ポン!」「ジャン・ケン・ポン!」
「あっち向いてホイッ!」
左向きと左向きで勝負が付いた訳なのだが、二人共凄く『困惑』の表情を浮かべていた。目の前の状況が理解できないでいる。
だから、負けた方がジュースを奢るでもなく。買った方が喜ぶでもなく。駅に入って来た貨物列車に向かって、走り始めていた。
「何だあれっ!」「分かる訳ないでしょうがぁ」
機関車の足元から火花が飛んでいる。素人にもブレーキを掛けるであろう『キーキー』音が、ずっと鳴り響いているのも不安を煽る。
「誰か襲われているぞっ!」
その後ろでは、見たこともない『ドローン』が飛んでいる。一体何機いるのだろうか。数えている余裕はない。
しかもそこからは『銃声』が聞こえてくるではないか。排出された薬莢が貨車へと落ちて跳ね返り、線路にまで飛び散っている。
貨車の上で頭を抱えている男が一人。首を縮めてしゃがみ込んでいるが、まだ生きているようだ。
足元に見える銃は多分89式なのだろうが、それを使う様子もない。弾切れか、はたまた『無駄な足搔き』なのか。
「列車を停めろっ!」「俺が停めて来ますっ!」
あっち向いてホイで勝った報酬は『ジュース』から、『この場から立ち去る権利』に昇華したようだ。原島はもう走り出す。
「ちょっ! ずるいぞっ!」
残された金子はオロオロするばかりだ。その間にも貨物列車は近づいて来る。『ガタタン』と、ポイントを乗り越える音がしてホームへと滑り込む。金子は今来たばかりの方向へと再び走り出す。
これから先はどうするべきか。『駅での警備』に含まれるのは、『民間人の排除』だった筈なのに、こんな任務は含まれてはいない。
とりあえず肩に担いでいた89式を握り締め、空に向かって撃つ。
『パァァン!』「離れろっ!」
話し掛けて見たのだが、誰からも返事はない。列車も止まらない。
金子は走りながら思う。『何だこの任務は』と。
軍用列車を撮影する奴らに、銃を突き付けるだけの『簡単なお仕事』だった筈なのに。
奴らは何処で調べてくるのか、『時刻表に掲載されていない列車』でも、『何も列車が走らない日』でも、カメラを担いでやって来る。
野を超え山を越え柵を超えて。そこに鉄路がある限り、永遠にだ。
金子は機関車に追い抜かれた直後に『赤い目』の視線を感じた。




