アンダーグラウンド掃討作戦(二十七)
黒田は腕組みをして考え込んでいる。それにしても寒くはないのだろうか。黒井は寒いと思う。服を着たままだからだ。
しかし黒田は髪からしたたり落ちる水滴を、全く気にすることもない。空を眺めたり川の流れを見つめたり。
そちらの方が随分と気になるようだ。
「上手く撒いたみたいだな」「そうですね」
耳を澄ませても聞こえて来るのは、早瀬に打ち寄せる波の音ばかり。さっきまでの『機械音の類』は何もない。
「判ってるのかよ」「判ってますよ。これでしょう?」
黒井が『ミントちゃん』を指さしている。黒田も頷いた。
どうやらアンテナをぶっ壊したお陰でか、仲間を呼び寄せることもなく、現在地をお知らせすることもなかったようだ。
黒田が気にしていたのは現在位置だ。山の中なのである。
何とも中途半端な所で降ろされてしまった。
「山越えするか?」「えぇっ」
黒田は足柄峠の方を指さした。黒井は渋い顔だ。
二人の頭の中には『現地の地図』がインプットされている。もちろん『こういうとき』のためだ。抜かりはない。
「何だ。根性見せろよ」「反対側ですよ?」
確かに上陸地点は川の反対側である。橋まで行くのは遠回りだし、この辺は浅瀬のようだ。
ジャブジャブ入って行けば、渡れないことはないだろう。
「川沿い行く訳にはいかんだろぉ」「丹沢の方に抜けませんか?」
黒井が指さしたのは、黒田とは反対側の方だ。
「馬鹿。二駅も先だぞ?」「えっ?」
「それに駅前なんて通ったら、絶対見つかっちまうわっ」
どうやら黒田には『線路沿いに国道を歩き、二駅先の県道を左』と聞こえたようだ。確かに車で行くならそうだろう。
谷峨駅の方を親指でブンブン指して呆れている。
「もぉ。何処へ行くんですかぁ。嫌だなぁ」
「何処って何処だよぉ。丹沢だろぉ? お前が言ったんだろうがぁ」
話が噛み合っていない。二人共『呆れ顔』になってしまった。挙句の果てにはド突き合いでも始まりそうな勢いだ。
「明神峠まで行って、山越えですよぉ」
もう一度『指さした方を良く見ろ』とばかりに、黒井が闇夜を指さした。それは県道を標高九百メートルまで登り、ハイキングコースと言う名の山道を、大棚の滝まで降って行く道のりだ。
「あぁ。そっちぃ?」「ですです」
理解したが眉をひそめて答えている。
それは『俺は大丈夫だけどぉ』の目だ。むしろ『言い出しっぺは大丈夫なのかよ』と言っているようにも見える。
「じゃぁ『コイツ』は、誰が持って行くんだよぉ」
足元に転がっている『ミントちゃん』二機を黒田が足で指す。
「じゃぁ、ジャンケンにします?」
笑いながら提案をした黒井が、腕をクロスさせて手を握る。




