アンダーグラウンド掃討作戦(二十六)
『ガガガガッ』
プロペラが粉々に砕けて、破片が周囲に飛び散る。何個かは黒井の頭にも当たった。怪我はない。
しかし予想していたこととは言え、高度が急激に下がる。推進力を失った『ミントちゃん』が水面に落ちた。
水面に落ちても元気なプロペラもある。今度はそれが『スクリュー』の様な役割を果たし、川の流れよりも速く動き出す。
黒田もこうやって川下へと、連れて行かれたのだろう。
黒井は『どうにでもなれっ』と思いながら、しっかりと『ミントちゃん』を抱きしめた。
元々『生活防水』程度はあったのだろう。
直ぐに止まらなかったプロペラが、やがて目に見えて遅くなり、やがて停止した。
プロペラが止まるまでの時間が長かったのか、それとも長く感じただけなのかは黒井に判る筈もなし。
少なくとも、大人しくなった『ミントちゃん』を抱きかかえたまま自分の意思で泳ぎ、岸へとたどり着くことは出来そうだ。
黒井は真っ暗な川ので、今度は首までずっぽりと濡れながら泳いでいた。
浮き輪の代わりにでもなるかと思った『ミントちゃん』であるが、中へ段々と水がしみ込んでいるのだろう。沈んで来た。
それでも足が付く所まで来て、黒井はホッとする。
「無事だったか」「何とか」
黒田にしては珍しいヒソヒソ声。返す黒井の言葉も静かになる。
川の流れがそうだったのか、どうやら同じ場所に上陸を果たしたようだ。見れば黒田の足元にも『戦利品』が転がっている。
振り返れば闇夜に鉄橋が見える。どうやらいつの間にか、もう一度鉄橋の下をくぐり抜けていたようだ。
しかし、戻るべき貨物列車はもういない。耳を澄ましても、聞こえてくるのは清流の流るる音ばかりなり。
どうやら貨物列車はUの字に曲がっている川の流れよりも速く、下り坂を一直線に転げ落ちて行ってしまったようだ。
汽笛の音さえも遠くになりにけりである。
「どうするんですか?」
黒井が鼻を擦りながら聞く。絞っても仕方ないのだが、シャツの裾を絞ると凄い量の水がしたたり落ちている。
「その辺で、車借りて行くか」「えぇー」
事も無げに辺りを指さして黒田が言う。全く『躊躇』も『迷い』もない。さも当然の様に言うではないか。
当然黒井は反対だ。本当は『盗んで行く』に違いない。
そんなことを公務員がしたら確実に『懲戒免職』だ。
この世界では自衛隊員ではないけれど。しかし誰しも『誇り』だけは失いたくはない。一般人に迷惑は掛けられない。
「車で行ったら、きっと『捜索隊』に見つかりますよ?」
「あぁ、それは困るなぁ」
黒井の反論に黒田が頷くとは、世も末かもしれない。




