アンダーグラウンド掃討作戦(二十五)
黒井は急いで『細い円形の部品』を探す。しかしそれは、直ぐに見つかった。右手を離してそれを引っ張る。直ぐに戻した。
取り外そうとしてみても、そう簡単には取れない代物だ。
ねじ止めされていればドライバーが必要である。もちろん今はない。それに黒田はパッと外していたではないか。
回転しながら、何とかしようとしていた黒田の動きを思い出す。
「おわっ、ペッペッ」
黒井も回転してしまい、水を飲んでしまった。左手に力を込める。そして『ミントちゃん』の上側をジッと観察。何処だろう。
戦場で部品は壊れるものだ。そして、その場で交換するものだ。
仮に壊れた二台から部品を集めて一台になる『二個一』が可能なら、戦場では迷わず行う。
だとしたら『アンテナ』なんて一番外側にあるもの。交換も考慮されている筈だ。
「これだっ」
小さなレバーがあった。今度は離した右手を直行させる。
『カチン』「取れたっ」
あとは全体を手前に引っ張って、留め金から外すだけ。意外と簡単だった。それを右手に持って掲げようとして止める。
掲げた黒田はバランスを崩し、苦労しているのが見えたからだ。
取れたアピールは無用。黒井はアンテナを握り締めたまま再び『ミントちゃん』を押さえに掛かった。
黒田は完全に振り払われていた。辛うじて左手だけが、伸びたプロペラ足の付け根を握り締めている。
だからだろう。『ミントちゃん』も水平ではなく、ほぼ垂直になったまま疾走を続けている。
四つあるプロペラの内、水中に没していた一本は壊れてしまったのか完全に止まっている。
黒田が握りしめるプロペラを下にして、残りのプロペラが全力で引っ張っている。水面すれすれを下流に向かって。
そんな姿勢のまま、良く飛んでいられるものだ。
すると突然『カチン』と音がして、全速力で回るプロペラが火花を散らす。『ガガガガッ』と何かが挟まる音がする。
「おわぁぁぁっ!」
たちまち推進力を失った『ミントちゃん』が、ひっくり返って水面に落ちた。激しい水飛沫が上がり、黒田も一緒に流れに沈む。
さっき放り投げたアンテナは『Ω(オメガ)』の形をしていた。
それが放物線を描いた後に落ちて来て、偶然にもプロペラに絡まったのだ。ゴルフの『ホールインワン』よりも難しい。
黒井にはその様子が見えていた。そして真似は出来ないと悟る。
だから右手に持ち続けていたアンテナを、右手だけで持ち直す。そしてそれを、手が届きそうなプロペラへ近付けた。
プロペラの材質を確認する暇なんてない。何かの破片が、こちらに飛び散るかもしれない。
だから顔を背けると、思いっきりプロペラに挿し込んだ。




