アンダーグラウンド掃討作戦(二十四)
暗闇の水中は、上下が判らなくなるので危険だ。それは空を飛んでいるときと同じって、誰かが言っていたのを思い出す。
「プハーッ」
黒井が闇夜の水面に顔を出す。顔を拭いている余裕はない。
両手でしっかりと押さえ込んでいた『ミントちゃん』のお陰で、上下は逆にはならなかった。
今から思えば、鉄橋から落下して無事だったのも『ミントちゃん』のお陰だ。一応礼を言っておこう。『サンキュッ』だ。
そう言えばお腹辺りに、『ゴンゴン』と当たる衝撃があった。
四つあるプロペラの一つが飛び出せず、充分な推進力と安定を得られなかったのだろう。
お腹を擦る余裕もないが、血も出ていないし滲みてもいない。
水中をバタバタする足先まで感覚もある。きっと無事だろう。
「こいつがアンテナだっ」「どれですかぁ」
黒田が『ミントちゃん』の上側を肘で指さしている。向こうも両手で押さえるのに必死だから、それはそれで仕方ない。
「ちゃんと見ろよぉ」
前髪が黒井の顔を覆っていた。だから黒田は『黒井の奴、見えていないな』と思ったのだろう。渋い顔のまま左腕に力を入れる。
黒井に言わせれば、『だってもう自衛隊員じゃないし』である。それにアンダーグラウンド暮らしでは、床屋に行く余裕もない。
切れないバリカンで坊主にするなんて、まったくもって御免だ。
「見えてますよぉ」
反論したが黒田からの返事はない。二人は流されながら、クルクルと回り続けていた。いつまで続けるのかなんて判らない。
一つ判っていることがある。それは、手を離せば『撃たれる』であろうことだけだ。
こいつがもうすぐ『アンダーグラウンド』に、大挙して現れる『秘密兵器』なのだ。何だったら、このままお持ち帰りしたい位だ。
しかし黒田には、『もう一つ』判っていることがあったらしい。
執拗に『アンテナ』を気にしているのがその証拠だ。
黒井に『実物』を見せてやろうと右手を離し、上側にある『細い円形の部品』に手を掛けた。そして思いっきり引っ張る。
「これだっ! おわぁぁっ」
取り外した円形の部品を、高々と掲げた瞬間だ。『ミントちゃん』を右手で押さえていた側が空へと動き出す。
力のバランスが崩れて、軽くなったからだろう。黒田は右手のアンテナを放り投げた。そして右手を直ぐに降ろす。
「大丈夫ですかっ!」「良いから早く外せっ!」
「だって」「仲間が来ちゃうぞっ!」
そう言い残して黒田が『ミントちゃん』に引きずられて行く。
仲間が来るのは『良いことじゃないか』と、黒井は思う。
しかし黒田が言わんとしていた『仲間』の意味を考える。
振り払われてしまった右手の親指で、必死に指していたのが『ミントちゃん』であった場合の『仲間』の意味をだ。




