アンダーグラウンド掃討作戦(二十二)
突然黒田が叫び声を挙げ、『ミントちゃん』を抱えたまま宙に飛び出す。黒井は驚いて振り振り返る。
しかし次の瞬間、黒井も胸に強い衝撃を受けて宙に浮いていた。
何が起きたのかを考える余裕もない。
すると、眼前から遠ざかり行く自動警備一五型から、残る六機のミントちゃんが飛び立つのが見える。
柳田の姿は見えないが、きっとあの『火柱』の下に居るのだろう。
不思議と何も音は聞こえない。
さっきまで聞こえていた『ガタンゴトン』という列車の音も、『キキー』という機関車のブレーキ音も。
『あぁ、俺は捨てられたのか』
黒井は何となく『虚しさ』を感じながら落ちて行く。
貨車に書かれた『コキ』の文字が何故か目に入る。不思議と冷静なままで『あの文字は何だろう』とさえ思う。
こんなときにどうでも良いのだが。
しかし、その『コキ』が見えたら『地面は近い筈』なのに、下になっている背中からまだ衝撃が来ない。
きっと『すごく痛いんだろうな』と思う。何故なら一度は体験した筈だから。全く覚えていないけど。
黒井の視界は上を向く。貨物列車は既に遠くなり、手を伸ばしても届かない距離までになる。
おかしい。これだけ落ちて、まだ背中に『衝撃』が来ないのはどういうことだ。
すると視界に『鉄橋』が入る。黒井は理解した。
自分は今『川へ向かって落ちているのだ』と。
最悪だ。パラシュートもなく河原にでも落ちたら、痛いどころでは済まない。
それでも黒井には、何故か過去を振り返る余裕もあった。
この世界に飛ばされてくる前のこと。飛ばされてからのこと。
荒川の堤防から見た『東京の景観』には、驚いたものだ。
何かに怯えながら食べた、黒沢おばちゃん特製の豚汁。餅入りで美味かったなぁ。ステーキもエビチリも。
やっぱ嫁さんにするなら、料理上手が良いなぁ。
美里が作ってくれたお茶漬けも、凄く美味かったよなぁ。
俺がいなくても、元気でやってるかなぁ。
こっちの世界にもいてくれたら、一目逢いたかったなぁ。
次から次へと足早に現れては、そして過ぎ去って行く思い出たち。不思議と悪い気はしていない。
鉄橋も視界から外れ、見えるのは星空だけになっていた。
きっと黒田も先に落ちて、自分を待っていてくれることだろう。子供みたいな『無邪気な目』をして微笑みながら。
『バシャッ!』「ちめてぇっ!」
黒田の声だ。目の前の景色が急速に動き始める。咄嗟に『受け身の姿勢』になっていた。本能だろう。
『バシャッ』「いてぇっ! じゃねぇっ!」




